Jeff Beck 1999
 


 
 
 
1999年

5月25日(火) 横浜・神奈川県民ホール
5月26日(水) 名古屋・厚生年金会館
5月28日(金) 福岡・市民会館
5月30日(日) 大阪・フェスティバルホール
5月31日(月) 東京・東京国際フォーラム
6月2日(水) 東京東京国際フォーラム
6月3日(木) 東京東京国際フォーラム

  
   Guitar Jeff Beck
Side Guitar Jennifer Batten
Bass Andy Hope Taylor
Drums Steve Alexander



 
1. WHAT MAMA SAID
2. PSYCHO SAM
3. BRUSH WITH THE BLUES
4. STAR CYCLE
5. SAVOY
6. BLAST FROM THE EAST
7. A DAY IN THE LIFE
8. DECLAN
9. THX 138
10. THE PUMP
11. LED BOOTS?DRUM SOLO
12. SPACE FOR THE PAPA
13. ANGEL(FOOTSTEPS)
14. EVEN ODDS
15. YOU NEVER KNOW?BASS SOLO
16. BLUE WIND
17. WHERE WERE YOU
18. BIG BLOCK

 

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10年振りにリリースされたアルバム、「WHO ELSE !」をひっさげ、これまた10年振りに来日を果たしたジェフ・ベック。クラプトン、ジミー・ペイジとともに 3大ギタリストとして名を馳せたベックも来日のインターバルが長くなるにつれて もう隠居してしまったのかと言う心配さえファンに抱かせていました。 この来日を誰よりも喜んだのが、ARMSで3大ギタリストをナマで目撃した私の奥さん 。3大ギタリスト来日の際には必ずコンサートへ足を運ぶ 彼女は、久方ぶりのベックの来日にエキサイトして、大阪まで遠征したのでした(笑)。 私はさすがに関東エリアでのコンサート数回で止めておきました。それでも1回で終わらないあたり、我が妻の熱狂振りに当てられた感じはありましたが(笑)。しかし、このコンサートを観終えて、思ったことはまず第一に 「全部行っときゃよかった。」でした。こんな中身の濃いコンサートは何年ぶりでしょう。このレポートを書いている 99年6月現在では、今年観たコンサートではダントツのNo.1です。秋に来日する クラプトンでさえも、よほど素晴らしいコンサートを演ってくれない限りは 私の中で、ベックのNo.1は揺るがないでしょう。  

今回のコンサートはニュー・アルバムを中心に比較的最近の曲で構成されていました。 新曲の感じはかなり新しい要素が取り入れられて、打ち込みを多用するなど、 音楽の方向性としては、かなりクラプトンの PILGRIM に近いコンセプトが感じられる ものでした。

しかし、クラプトンとベック、どちらが個性をいかんなく発揮しているかについて言えば、それはいかなクラプトン・ファンの私としてもベックに軍配を 上げざるを得ません。なんであんなに新しい要素が取り入れられているのに、ベック らしさが損なわれていないんだろうと思うくらいです。そんな「らしさ」を保ち続けている ベックだったからこそ、日本のファンにも熱狂的に迎えられたのでしょう。

ニュー・アルバムの “WHAT MAMA SAID” の激しいビートで幕を開けたコンサートはサイド・ ギタリストの JENNIFER BATTEN による超早弾きタッピング奏法で曲の勢いにさらに 拍車がかかり、いきなりエンジン全開といった雰囲気でした。この JENNIFER BATTEN と 言う人、非常にテクニックのある女性ギタリストで、以前は マイケル・ジャクソンのツアーに バンド・メンバーとして参加していたそうです。ギター・シンセサイザーを使用して様々な 種類の音を奏で、ベックの曲に多数見られる変拍子にもしっかりついて行き、非常に大きな存在感が感じられました。

さて、肝心のベックのプレイですが、例えて言うと、もし触ることが出来たらきっと感電してしまうんじゃないかというくらい、太くて高圧な音質、 ギターの指盤からくり出されるだけでなく、ボディの振動やギターと繋がっている アンプから絞り出されるフィード・バックによる不協和音、自由自在なアーミング・プレイ、 繊細かつ凶暴なボトル・ネック奏法、タッピング奏法にボリューム奏法などなど、 ギターを弾かない人には言葉にするとなんのことやら分からないでしょうが、 うぅ?????、要するにすごかったんですよ!!

なんて言うか、ギターを弾く際の発想が根本的に他のギタリストと違うんですよ。 とにかくギターに秘められているあらゆる可能性を引き出そうとするプレイ。 それは時として奇抜に映ることもあるでしょうが、そんなところもみごとに「らしさ」に 昇華させていました。ギターの指盤のどこを押さえたらこんな音が出る、 普通のギタリストはそんな発想からメロディを作り出すのだと思うのですが、 ベックの場合はそんな発想は逆にあまり持っておらず、通常のプレイはもちろんのこと、 ギターの指盤だけでなく、ボディもボリュームも、とにかく音が出るところならどんな ところでも演奏に利用すると言う発想でギターをプレイしているようでした。

クラプトンはブルースのメロディにのっとった、比較的オーソドックスな旋律が印象的で、 ものすごいプレイをしている時でも、やはりそこそこ構成を意識したプレイをしていると思います。気持ちが乗った時の演奏はそれはそれはスゴイものがありますが、正統派という 感じですよね。ジミー・ペイジはギターのテクニックと言うよりも、むしろギターで弾いた場合に一番効果的なリフレインを考案するタイプだと思うのですがいかがでしょう。 このように3大ギタリストの2人は、ある程度構成や効果のようなものがベックの演奏よりも 大きな比重を占めているような気がします。ところがベックのギターは良くも悪くも 行き当たりばったり、他のギタリストよりも野性的で感情の赴くままに弾いているように見えて、聞くものに予想を許さないプレイでした。トリッキーな奏法がそれに拍車を かけていました。下手のよこ好きながらもギターを弾く私にとっては、ベックはまさに「変態ギタリスト」です。 この人のギター・プレイは自分でもマネしてみようなんて全然思わないんですよ。 だってマネできないもん。それくらい「変態」入ってます。

さらにクラプトン、ジミー・ペイジと比較すると、まずその容貌に驚かされます。 遠目から観たベックは容貌に衰えをまったく感じさせず、クラプトンのように首の皮膚が たるんだお祖父さん顔になってるでもなく、老眼鏡かけてるでもなく、ジミー・ペイジの ように頭が薄くなって顔がデッカクなってそんでもってお腹がデップリしてるでもなく ホント昔のまんまでした。

そして肝心のギター・プレイ。テクニックに年齢的な衰えが 全く感じられず、日によって出来不出来はあったものの、アグレッシブな姿勢は最後まで変わることはありませんでした。2時間弱のコンサートでは一秒もダレる瞬間がなく、 体力も昔のままと言う印象でした。それからユーモアのセンス。観客にレスポンスを求める時に腕を振り上げた時の恥ずかしそうな仕草は、妻いわく「母性本能をくすぐられた」そうな。また演奏で使用したボトル・ネックを観客席に 投げ込むふりをしてポケットにしまい、観客の「あぁ?」というどよめきを嬉しそうに見たかと思うと今度は本当にボトル・ネックを投げ込んだり。MCでもユーモアタップリな ところを見せてくれました。いったんマイクに向かって歩み寄り、またフェイントをかますと 再びマイクの所に戻ってわざとドモリながらしゃべったりして、観客とのコミュニケーションも バッチリでした。ラストの曲ではギターをかき鳴らしながら、頭に抱え、それを JENNIFER BATTENのところへ持って行き、彼女に弾かせるなど、見せ場もちゃんと 用意していました。ステージ上での、有名人にありがちな「俺の音を聞け」的な高慢な ところは一切なく、プレイでのアグレッシブな面も、それ意外で見せるシャイでナイーブな 面もすべて包み隠さずに見せていました。気持ちばかりでなく、プレイに現れる昔と 変わることのないアグレッシブさ、妙に枯れることなくいつまでも悪ガキの面影を残した プレイ。このコンサートを観て悟ったこと。 「ロックで悟りを開くことなかれ」 。

ミュージシャンは仙人になっちゃぁおしまいよ。 クラプトンも今度の来日では必要以上に芸術性を求めたりせず、己をさらけ出した 野性的なプレイに徹してもらいたいですね。


(Domino)
 
 
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