復活ライブ
at Royal Festival Hall, London
May 6, 2005

 
 
  1. The Undercover Man
  2. Scorched Earth
  3. Refugees
  4. Every Bloody Emperor
  5. Lemmings
  6. (In The)Black Room
  7. Nutter Alert
  8. Darkness(11/11)
  9. Masks
  10. Childlike Faith In Childhoods End
  11. The Sleepwalkers
  12. Man-Erg
  13. Killer(Encore)
  14. Wondering (Encore)
Vocals, Accoustic guitar, Piano Peter Hamill
Drums, Percussion Guy Evans
Alt & Tenor Sax Dave Jackson
Bass, Organ Hugh Banton
   
【1】

ピーター・ハミルの作品に初めて出会ったのは、もう20年近く前。「The Love Songs」というLPを聞いたのがきっかけだった。1984年か85年のある日、池袋にあった輸入盤も揃えているレンタル・レコード店(当然CDの時代ではない)で借りることができた。

今から振り返ると、どう考えても借りる人が多いとは言いがたいハミルのレコードをよくも入れてくれたものだ。しかし、それが自分にとって、20年以上、そしてこれからも付き合うであろうきっかけを与えてくれたのである。






  
   【2】

The Love Songsを一聴して、すぐハミルの声の虜になった。声質はダミ声だが、声の使いこなし方がすごい。時に優しく、時に全身をバネのようにして、ナイフのように鋭く迫る。一度聴けば(特に生で聴くと)、絶対に忘れられないほど強烈な印象を与える。その年の卒業論文の執筆中は、The Love SongsとSiouxsie and the Bansheesの「Nocturne」(これも池袋のレンタル・レコード店で借りた)を交互にかけていた。

その後、遡ってソロ時代、そして彼が属していたVdGG、およびVan der Graaf(VdG)のアルバムをすべて揃えた。ハミルは1986年にソロで、その後88年にギタリストのジョン・エリス(元Vibrators。一時期Stranglersにもいた)と、2001年、2002年、2004年にはヴァイオリン奏者のスチュアート・ゴードンとともに来日している。そのほとんどに行く機会に恵まれた(残念ながら皆勤賞ではない)。特に渋谷LIVE-INNでの初来日は忘れられない。
 
【3】

今でも自分の調子がやや下降傾向にあるときには、自然とハミル/VdGGのCDに手が伸びる。それもなぜか多くの場合、VdGGの「Godbluff」というアルバムに行く。1曲目の「The Undercover Man」を聴くと、不思議とエネルギーが蘇ってくる。次にほぼ同時期に録音された「Still Life」を聴くのが定番。1曲目「Pilgrims」もThe Undercover Manと同様、聞き手を高揚させる効果がある。2曲目の「Still Life」や4曲目(B面1曲目)の「My Room」は、現在でもソロでのライブの定番になっている。

こうして、ハミルのソロ・ライブでVdGG/VdG時代の曲を体験できてはいたものの、日本のファンはグループ編成でのハミルは未経験だった。ソロ時代もK Group(ハミル、ジョン・エリス、VdGG/VdGのドラマーであるガイ・エヴァンス、VdGGに一時参加していたベースのニック・ポッターの4人編成)など、グループ編成で活動することもあったが、そのフォーマットで日本に来てくれたことはない。まして、VdGGは1976年12月のドイツでのギグをもって活動を休止(その後メンバーを変えて、VdGとして78年6月まで活動した)。実際にVdGGを体験することなど、夢のまた夢だった。
 
【4】

そのVdGGが再び活動を始めた。メンバーはハミル、ガイ・エヴァンス、VdGGの音楽の要であるオルガンを奏でるヒュー・バントン(彼はオルガン職人でもある)、昨年ハミルとともに来日したサックス/フルート奏者のデヴィッド・ジャクソン。VdGGの最高傑作と言われる「Pawn Hearts(ロバート・フリップも参加)」、個人的に最も好きなGodbluffとStill Life、そして名曲「Wondering」で締めくくる「World Record」のメンバーが、再び集結するのだ。

幸いなことに、こけら落としのライブはゴールデン・ウイーク中。これはもう行くしかない。妻を説き伏せて(というか、ほとんど事後報告だったが)、ともにVdGG復活という歴史的瞬間の証人となることに決めた。チケットは早々とソールド・アウトになったようだ。ちなみにチケット代は20ポンド(約4000円)。安いよなー。
 




コンサート開始前の様子。ステージは紫色に光っている

【4】

会場であるRFHは、クラシック系のコンサートが中心。会場に着いたのは、開演1時間前の18時半。すでに1階はファンですし詰め状態。当然のことながら年齢層は高い。英国人でない人も多い。日本人らしき人たちもちらほら。1階ではなぜかジャズの生演奏が行われている。Tシャツ売り場は、あまりの人ごみ(しかも当然外人)で近づけそうにない。とりあえず2階で開場を待つ。

会場はかなり広い。印象は東京国際フォーラムと似た感じ。ロイヤルボックスがあるのは、さすが王室のお膝元。過去、ハミルの音楽には渋谷のLIVE-INNだの、お台場のTribute to the Love Generationだの、原宿のアストロホールといった狭い(しかし心地よい)空間で接してきたので、こんな広い場所で観るのはやや違和感を覚える。

席はRear StallsのW列。中央のかなり後ろのほうだが、全体ははっきり見える。この辺りでも、客はよく入っている。自分の左側にすわった一行は、たぶんイタリア人。ステージは紫色に輝いており、環境音楽ともノイズとも言えない音がかすかに聞こえる。
   
【5】

定刻の19時半から10数分過ぎて、客席の明かりが少しずつ暗くなる。すごい声援の中、メンバーが出てくる。あの4人だ。ステージに向かって、左側にヒュー・バントン。中央奥にガイ・エヴァンス。その右側にデヴィッド・ジャクソン。ピーター・ハミルは、楽器を持たずにガイの前の中央に立つ。

帽子を被ったデヴィッドが、サックスを手にした両手を振り上げる。日本でもやってくれた、おなじみのポーズに、会場が沸きあがる。
【6】

そして会場は息を呑んで、最初の曲を待つ。しばらく静寂。デヴィッドが静かにフルートを奏で始める。The Undercover Manのイントロだ! どよめきが起こる。自分も興奮を隠せない。ハミルが静かに歌い始める。声の調子もよさそうだ。幾度となく聴き、自分を励ましてくれた曲が、自分の目の前で実際に演奏されている。この1曲目だけで、ロンドンまで来た甲斐があったと、心から思った。

The Undercover Manから、曲はそのまま「Scorched Earth(焦土)」に移る。GodbluffのA面をそのまま演奏したわけだ。The Undercover Manもそうだが、演奏はアルバムと寸分たがわぬと言ってよい。何よりアンサンブルが素晴らしい。4人の演奏が本当に一体となって響く。Scorched Earthの後半の激しさも、そのまま再現されている。

次にやったのは、ソロでもおなじみのナンバーである「Refugees」。初期のVdGGのアルバム「The Least We Can Do Is To Wave Each Other(精神交遊)」に入っていたナンバーだ。最初のほうで入るガイのドラムがいい味を出している。

結局、この日にやったのはニュー・アルバムからの2曲を含む計14曲。
 
   




VdGGの演奏中。いやー、Rear Stallsだとこれが限界ですな。米粒のように見えるメンバーは左からHugh Banton、Guy Evans、David Jackson、Peter Hamill。客席にいるやや頭の薄い長髪のおじさんと、その左の奥さんの熱狂振りはすごいものがあった


【7】

PilgrimsやStill Lifeは演奏しなかったが、それ以外の「Lemmings」や「Man-Erg」(ともにPawn Hearts収録)、「Killer(Pawn Heartsの前のアルバムである「H to He, who Am the Only One」収録)」、「The SleepWalkers」(Godbluff)など、代表曲はほとんどやってくれたと思う。意外だったのは、ソロ2枚目の「Chameleon in the Shadow of the Night」に入った「In the Black Room(もともとVdGG向けの曲だった)」や、World Recordの「Masks」を取り上げたこと。特にMasksは、改めて曲のよさを感じた。

VdGGの演奏にも驚いたが、それ以上に驚いたのは客の反応。曲の間は席を立たず、じっと耳を傾ける。ただ、有名な曲のサビではこぶしを振り上げて同調する。そして曲が終わった後の拍手と歓声の大きさといったら! スタンディング・オベーションがしばらく続く。そして、みな静かにすわり、次の曲を待つ。

ハミルは、VdGGとしてまた活動したことを心から楽しんでいるように見えた。自分が歌わず、演奏もしないときは、ステージの後方をゆっくりと歩き回りながら、3人にエネルギーを送る。アンコールのWonderingでも、ステージをゆっくりと、優雅にWonderingしていた。

演奏がすべて終了し、深々とお辞儀をしてメンバーがステージを去ったときには、もう10時近かった。来た人全員感じたと思うが、本当に2時間があっという間に過ぎていった。

  
   
【8】
 
ライブのショックが覚めやらぬまま、強烈に感じたのは、「2005年の今、VdGGが再び活動を始めたのは必然である」という事実だ。

ちょうど同じタイミングで、ロンドンのRoyal Albert Hallでは、エリック・クラプトン、ジンジャー・ベイカー、ジャック・ブルースによるCreamの再結成コンサートが開かれていた。メディアは当然、Creamのことを多く取り上げていた。だが、実際に見ていないので断言はできないが、Creamの再結成に時代の必然性を見出すのは難しい。

これに対し、VdGGが奏でたのは、明らかに今こそ聞かれるべき音楽だった。単純に30年前と同じエネルギーを保っているということだけではない。今回、VdGGの音楽に生で接して最も感じたのは、暖かさだった。演奏は確かに火がついたように激しい。しかし、その奥に何とも心地よい暖かさを感じることができた。ギスギスした現在において、多くの人に希望をともすのは、こうした類の音楽ではないだろうか。


  【9】

VdGGを過去のVdGG/ハミル・ファンだけのものにしておくのは、もったいないし間違っている。では、これから新たなファン層を築くことができるだろうか? この4月に発売された新譜「Present」の後も、単なるノスタルジーを越えた作品を生み出せるだろうか? 彼らが5月6日に見せてくれた素晴らしい演奏に敬意を表して、「きっとできる」と希望を持ち続けたい。

p.s.この日の昼には、VdGGのオリジナル・メンバーであるジャッジ・スミス(クリス・ジャッジ・スミス)のミニ・ライブもあった。明確な声と発音で朗々と歌い上げるスミスの姿に、裏VdGG史を見た思いをした。何と充実した1日だったことか!



ジャッジ・スミスのライブは、ノッティング・ヒルの近くのCobden Clubで行われた。こっちも観客の熱狂振りがすごかった

(田中 淳)  05年5月15日アップ
 
   
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