漫画、マンガ、少女マンガ



僕は、中学生から高校生にかけて、圧倒的に『少女漫画』を読んでいた。読みふけっていたと言ってもいい。読みながら、大人になれば、いずれは飽きてしまうのだろうと思っていた。しかし実際はどうだろう。僕は、未だにあの時期に読んだ『少女漫画』の多くを、素晴らしい内容だと思っている。

山岸涼子

昔、NHK教育TVで「YOU」という番組(司会:糸井重里)をやっていたのだが、少女漫画特集でご本人が出演されているのを見た記憶がある。和服をキリッと着こなした鋭い感じの女性だった(ご本人の自画像とは、かなりかけ離れている)。端正で綺麗な絵を描く人である。とりあげる内容は、一言でいえばハイブロウ。神話、心理学、歴史、SF、エロティックな要素などをきれいに融合して、何とも不思議で怖い作品を描く(恐怖物はマジで怖い)。人間のこころの深さを熟知されている方だと思う。

「日出処天子」

聖徳太子(厩戸王子)の少年期から青年期を、当時の大和朝廷を舞台に、豪族の蘇我毛人に対する同性愛を中心に描く。厩戸王子を超能力者だが、女性を愛せない不具者として描く大胆な設定。しかし話は全く宙に浮かず、大人の読者も十分に楽しめる作品になっているのは、細やかな人物描写、綺麗な絵、史実を巧みに活かした物語の構成力のなせる技だ。
今、文春文庫で自選作品集が出版されている(日出処天子を除く)。改めて、今回読み直してみたが、やはり素晴らしい作品群だと思う。


竹宮恵子

「風と木の詩」

19世紀末期のフランスの男子だけの寄宿制学校を舞台に、二人の美少年、清廉潔白なセルジュ・バトゥールと、自由奔放なジルベール・コクトーの同性愛(なんか同性愛ものが多いなあ)を中心に、その悲劇を描く。二人の生い立ちから丁寧に積み上げられた物語は、十七巻の長篇に及びながらも破たんすることなく細やかな人物描写を通して、描かれる。日本の女性漫画家が、フランスという異国を舞台にこれだけの作品を作り上げるのは、まさに奇跡。

他にも「After 5 Revolution」とか「Spanish Harem」といった軽いノリの作品も十分に楽しめる。


吉田秋生
「吉祥天女」というミステリアスな作品を読み出したがきっかけだが、「河よりも長くゆるやかに」とか「櫻の園」といった『高校生もの』のほうが、私は好きだ。この人の絵は、前のお二人に比べると随分ムラがあるような気がする。

「BANANA FISH」

サリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日」からネーミングされた死を呼ぶ薬『BANANA FISH』をめぐって、ストリートキッズのボス アッシュ・リンクスと、かつてアッシュの支配者であったコルシカマフィアのボス ディノ・ゴルツィネ、二人の対立をニューヨークを舞台に描くハードボイルドタッチの長篇作品。私は、何といってもアッシュ・リンクスという少年の描き方が好きだ。そのアッシュが死んでしまった後の番外編である「光の庭」で、不覚にもうるうるときてしまった。

以上、私が好きな漫画家の作品だけ取り上げてみた。これらの作品に共通しているのは、いずれも、お目めパッチリの「少女漫画」の世界を大きく逸脱している点にある。


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