失われた歌たち


「歌は世に連れ、世は歌に連れ」…時折、失われた歌たちへの思いが過ぎる。


浜田 省吾

  

『Money』を聴いた時、なんてことを歌うんだこの人は!と思った。たぶん、あんまりストレートな歌でびっくりしてしまったのだ。

彼の初期の歌のなかの主人公たちは、みんな金銭的に豊かな生活とは遠いところにいる。彼らは、富に憧れ飢えていて野心的だ。

そんな青年が、高校時代、彼女とプールで戯れた夏の夜を思い出す『Edge Of The Knife』。「Surf MusicなんてブルジョワのBGMさ」とうそぶく『At the Poolside』。

考えてみれば、貧乏な青年にとって プールサイドは近くて遠い距離にある憧れなのかもしれない。

浜田省吾にはかなり重いテーマの歌があるが、個人的に上記のような歌が好きである。

   

les 5-4-3-2-1 (レ・ファイブフォースリートゥーワン)

このポップグループを知ったのは、村上春樹の『村上朝日堂』でアルバム『プレポップ宣言』を賞揚していたのを、読んだから。

ボーカルの女の子が、ヒトミという子と松野アリミ(元リボン)の時代に分かれているけど、いずれも作品としてはハイレベル。

サリー久保田のセンスの良い音楽性が各々の女の子の個性を上手く引き出している。

「ジャズる心」とか、「虹の彼方で」とか、何回か聴くうちにクセになりそうな魅力がありました。

   

大沢誉志幸

ハスキーな声で歌うクールで退廃的なポップ。大沢誉志幸は、一時そんなアルバムを作っていた。「Serious Barbarian」は、彼の作品のなかでも、その色合いが一番強くて、上質なアルバムだったような気がする。

…乾いた部屋を編み出した退屈 無口なだけのパセリを見てる 別の俺がBlueに溶けていく…

パセリを見てる/Serious Barbarian

1999年から目立った歌手活動をしていないようだが、虚無的でありながら人間臭くて退廃的という複雑な魅力のある彼の歌に惹かれている人は多いはず。また良いアルバムを作ってほしい。


山本達彦

 

山本達彦のCDも大きいレコード店のCDコーナーですら見つけるのが難しくなってしまったこの頃。それでも、たまに彼の歌が、聴きたくなる時がある。

アルバム「Mediterranee(地中海)」の『ELDORADO』という歌が特に好きだ。

表紙のとれたヘミングウェイ 焚き火のゆらめき 俺達のELDORADO 探してたあの頃…

ハードボイルドの雰囲気を持つ稀有な歌。

地中海、バラ、夏の女、マティーニ、ビリヤードルーム…私の勝手な思い入れかもしれないが、彼の歌の幾つかには、そういう大人の男の世界があった。



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