オリジナル・ラヴのムーンストーン



田島貴男(オリジナル・ラブ)は、私にとって、同年代の日本のミュージシャンの中で唯一、CDを買って音楽を聴こうと思える存在だ。

彼の音楽との出会いは、CM で流れていた『ヴィーナス』(2ndアルバム「結晶」に収録)を聴いてからだ。その声が耳から離れなくて、アルバムを少しずつ聞き出して、ハマってしまった。

私にとってのオリジナル・ラブの魅力は、田島貴男の声そのものと言ってもいいかもしれない。高音だけでない柔らかな低音の響きを持つ甘い声は、他のミュージシャンには、絶対にないものだから。もちろん、ジャズベースな曲調や、3rdアルバム「EYES」の「Wall Flower」に代表される入っているラテン系の音楽が好きだったということもある。この頃はコンサートにも出かけて聴いていた。

しかし、そのような熱心さも、4thアルバム『風の歌を聴け』を頂点に、7thアルバム「ELEVEN GRAFFITI」から、次第に彼の音楽に対する違和感というものを感じ始め、段々と冷めていった。一つには、彼の冒険に満ちた音楽性の変化というものもあるけれど、甘く美しかった彼の声がパサパサしたドライな感じになってしまったこともある。

田島貴男は、初期のピチカートファイブにも在籍したことがあり、アルバム「ベリッシマ」、「女王陛下のピチカート・ファイヴ」あたりの彼の声は、男が聴いても、うっとりするぐらいきれいだ。この頃の田島の声は、今の彼の声とは、とても比較できないものなのだが、年齢的なものもあるし、こればかりは仕方がないと諦めている。

そういった印象が積もり積もったせいもあるが、9thアルバム『ビッグクランチ』は、私にとって聴くに耐えるものでなかった。ホラー映画のような奇怪な効果音が鳴り響く耳障りな曲が殆どで、聴いたときは、「ああ、もう、このミュージシャンともお別れだ」という暗い気分だった。(ファンっていうものは、こういう勝手な存在なんですね。)

10枚目のアルバムとなる 『ムーンストーン』も、WAVEの店員のCD の脇に貼ってあった「今度は違う!」のコメントがなかったら、とても買う気は起こらなかっただろう。(ちなみに、TOWER RECORDでも何処でもそうだが、レコード店で買うときに、ああいいうコメントを割りに気にするタイプです。店員さんは、頑張って良い文章を書いてくださいね。)

最初は半信半疑だったが、アルバム『ムーンストーン』は、何回も繰り返し繰り返し味わって聞くことのできる曲が多かった。全編に渡って感じる「透明な孤独感」というものが、強く心に残った。特に、3曲目の「GLASS」、9曲目の「冗談」が印象的でした。

『ムーンストーン』というアルバムは、田島(オリジナル・ラブ)の音楽活動にとって、良い転機となるアルバムに違いないというのが、私の印象だ。一ファンとして、こういうアルバムを聴けることができたのが嬉しい。

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