読書遍歴 2004.1.1〜


アメリカ一極体制をどう受け入れるか 山崎正和 中央公論新社

題名がすごい。しかし読後の感想から言うと、名著である。
イラクへの自衛隊派遣をめぐるニュースを否定的に捉えていた自分の考え方を軌道修正させれたような気がする。

山崎正和は、今の国際政治におけるアメリカの存在をこう捉える。
だが、この一極体制は歴史の趨勢の結果であり、世界にとって否定しようのない現実である。
アメリカの世界支配には危険があるが、しかしその逆にこの国が役割を拒否して、古いモンロー主義に帰ることにはもっと恐ろしい危険がある。問題はこの一極体制を受け入れたうえで、いかに各国がそれを賢明に運用するかということであろう。
また、一連の事件の発端となった9.11米国同時多発テロについても、当時、賛否両論湧き上がっていたアメリカの報復行動に対し、明確に肯定的判断を下している。
たぶん歴史の将来にわたっても揺るがない真実が一つだけある。それはあの自爆テロが犯罪であり、犯罪として対処されるべきだということである。
当時否定論者の最大の主張であったアフガニスタン民衆に対する全面的な攻撃に関しても、こう述べている。
近代世界の約束では国家が国民を実効的に支配していれば、住民の一部の戦争行為は国家全体の責任と見なされる。同時に国民が公然と国家に抵抗しないかぎり、国家の戦争は国民全体の戦争と見なされるのが常識だろう。
第二次大戦のドイツや日本の場合、戦争を真に企てたのが一部の指導者であっても、国民全体が戦争責任を問われたことを、誰も不思議とは思わなかった。
アメリカの報復が報復の循環を招き、世界に際限ない混乱をもたらすという仮説についても、その一方的な決めつけをこう批判している。
完全に誤りだという論拠はないが、まったく同様に、寛容は犯人をつけあがらせるという主張も誤りだとはいえない。報復も寛容もどちらにも危険があるとすれば、罪の追求に全力をあげるほうが道義性が高いといえる。なぜなら罪の追求はたんに犯罪者を根絶するためではなく、文明世界そのものの価値観を確認するために行う行為である。
今回のイラクへの自衛隊派遣についても、イラクの民生安定のために「顔の見える支援」をめざし、日本政府が行った判断を評価している。
自衛隊の最大の任務は、制服を着た外交官として現地にいることである。現地の民衆や外国の部隊と危険をともにし、テロや犯罪を恐れない日本人がいることを見せることである。
この本を読んでから、テレビに写る自衛隊隊員の表情が、緊張の中にありながらも生き生きと輝いて見えるようになったのは気のせいだろうか。
※山崎正和…1934年、京都生まれ。京都大学文学部哲学科卒業。現在、東亜大学学長。演劇論・文芸批評・文明批評とその活動は幅広い。私の国語の先生である作家の丸谷才一は、山崎氏を評してこんなことを言っている。
「これだけ法科的な頭の切れ味を見せながら、しかも文学がわかるというのは、現代日本文学の七不思議」


※モンロー主義…欧米両大陸の相互不干渉を主張するアメリカの外交政策の原則。

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