有名な推理小説批評家アントニー・バウチャーが『ハメット=チャンドラー=マクドナルド・スクール』と命名したように、マクドナルドの作品は、まさに第二次大戦後のアメリカ社会の暗部、その暗部という子宮に養われたものです。
彼の作品は、サンフランシスコ、ロサンゼルスといった西海岸ベルト地帯の、一歩外へ出れば、砂漠とサボテンと、ラスベガスのような性とアルコールとギャンブルの迷宮に生きる人間存在を取り扱う。
これらの悲惨を、『わたし』という血肉化された四十男の私立探偵 リュウ・アーチャーの冷たい炎のような眼で追っていくプロセスは、まるで月に軟着陸した宇宙飛行士の孤独さえ、僕に感じさせるのですよ。
田村隆一