何故、ジオン軍は敗戦したのか・・・?

緒戦をあれほど優位に闘い、僅か1カ月あまりで連邦軍をジオン主導の講和条約締結という形で軍門に下そうとしたジオン軍は、何故逆に1年足らずで敗戦を迎えたのか?

原因1.レビル将軍の脱出

 これこそが最大にして唯一の原因ともいえる。この事件が、なければ戦争は1カ月戦争と呼ばれジオンが、地球圏を支配することになっていただろう。しかし、現実には、レビル将軍は奇跡的にもジオンを脱出し、地球にまで帰り着いた。

原因2.無秩序な戦線の拡大

 南極条約以降、ジオン軍がとった作戦は唯一残された連邦軍の宇宙拠点ルナ2の攻略ではなく、コロニーの落下及びその後の月面マスドライバーの爆撃により弱体化した(ように見えた)地球への進行だった。ほとんどろくな補給体制も整えずに地球にまで戦線を拡大した結果、ジオンは、恒常的な補給問題に悩まされる結果になった。また、これは戦力の2分にも繋がった。そして、その結果地上の連邦軍を悩ませていた月面のマスドライバー群の防備の低下につながり、結局連邦軍の決死的な攻撃によって破壊されてしまう。ジオン軍は、ルナ2を攻略ないしは、完全に包囲し、マスドライバーによる爆撃を継続していればよかったはずである。そうすれば、防ぎようのないマスドライバー爆撃によって遠からず連邦軍は根を上げていたに違いない。たとえ、ジャブローが存在し続けても、それを支持する民衆が根を上げてしまえば、連邦軍はその存在価値を失ってしまったであろうからだ。

原因3.補給の失敗

 先の原因によって産み出された補給問題は、戦争が当初ジオン軍参謀本部が想定したような超短期間の終結を見なかったため、一気に表面化した。ただでさえ、連邦軍に比べて国力の小さなジオン軍にとって地球にまで延びた補給線を維持するのはそれだけで国力を削ぐ結果になった。また、連邦軍は、嫌がらせ程度の補給線の撹乱をするだけで確実にジオン軍の国力及び戦力を疲弊させることが可能だった。事実、初期のジオン軍の地球に対する補給部隊には、護衛がほとんどついておらず、連邦軍の襲撃によって大きな損害を出す結果になった。このため、ジオン軍は、より多くの戦力を護衛部隊として補給部隊に貼り付けねばならなかった。しかし、多少の護衛戦力を貼り付けてもその補給活動がうまくいかなかったのは、周知の事実である。

原因4.多種多様な兵器開発

 緒戦においてザク2の大量投入によって連邦軍を辛くも退けたジオン軍ではあったが、ザク2の消耗は決して許容できる範囲ではなかった。更に戦線の拡大は、ザクの限界も露呈していく結果になった。結果、用兵側からも軍首脳部からも新型モビルスーツの開発が要求されていく結果になった。この結果、正当なモビルスーツ開発(ザク>ゲルググ)以外にも、多数のモビルスーツが、戦線に登場する結果となった。開発途上で主力機から外れたモビルスーツ(MS−09。結果的には成功を収めた機体ではあるが)や、地上専用、水陸両用(驚くべきことに水陸両用型だけで8機種以上が生産ラインに登ろうとしていた)の各種モビルスーツが、開発量産化されようとしていた。又、既存のザクに関しても度々その製造工程が変更されザクだけでも20機種近い派生型が発生することになった。これは、他のモビルスーツも似通った状況であり、ザクの強化型でしかないMS−07(明らかに失敗作だった)でさえ5機種近い派生型が戦場に姿を表した。この結果、本国での生産ラインは、混乱を極め、又多機種のモビルスーツが存在することで補給計画にも大いに混乱をもたらす結果になった。更には、新世代の兵器としてモビルアーマー、ニュータイプ専用サイコミュの搭載機などの開発も同時に進めた為その傾向は一層の拍車がかかった。その結果、本来もっとも力を注ぎ込むべき次期主力モビルスーツMS−14の戦場投入は遅れに遅れ(主武装であるビームライフルの量産に手間取ったためでもあるが、マシンガンでもザクよりは有効な機体であったはずである)終戦間際まで待たねばならなかった。

原因5.内部抗争

 これは、内部抗争というよりは家族内抗争と言ったほうが相応しいかもしれない。ザビ家が独裁する(ジオン国民だった人々の中には決してそうではないとおっしゃる方がいるかも知れないが)ジオンにおいて、その勢力争いは、お互いを知る家族間だからこそより陰湿なものにならざるをえなかったのかもしれない。末弟のガルマ・ザビこそは、直接その抗争には関与しなかったと見られているが、長兄のギレン、唯一の女性であるキシリア、そして実直なドズルは、互いに直接その胸のうちを明かすことはなかったとされる。特にギレンとキシリアは、早くから戦後の主導権を握るための画策を続けていたとされ、ギレンに至っては直属の親衛隊を組織し、不穏な動きを圧政しようとした。又、キシリアも小さいながら親衛隊を組織したし、独自の研究機関(フラナガン機関)を秘密裏に立ち上げ、戦後の主導権を握ろうとした。結果、同じジオンでありながら末端の組織でさえ派閥争いを繰り広げる結果となり戦争遂行に少なからぬ、影響を与えたとされる。又、デギンが強権を発効しダイクン派を政治の表舞台から一掃したことによる旧ダイクン派の暗躍も少なからぬ影響を及ぼしたことを忘れてはならない。

原因6.モビルスーツに偏った戦力配備

 これは、ジオン軍が宇宙空間だけで戦闘を行っている間は問題がなかった。しかし、いざ地球へ部隊を配備するとすぐに顕在化した。モビルスーツは、確かに巨大な兵器であり、混乱を極めた初期の連邦軍にとっては脅威以外の何ものでもなかったが、いったん体勢を整えた連邦軍にとってザクを初めとするモビルスーツは、然したる脅威とはならなかった。モビルスーツ以外の戦力で脅威となりうるものは何もなかったのである。ザクを除けばジオン軍が装備する兵器の中で連邦軍が脅威と見なすものは、1つしかなかった。それは、ガウだけであった。しかし、そのガウですら脅威とされるのはメガ粒子砲を搭載しているという1点だけであり、対処の方法は目処が立っていた。すなわち、メガ粒子砲搭載戦闘機の投入である。マゼラアタック(ジオン軍の主力戦車)は、砲塔が分離飛行できるという特異なものだったが、分離した砲塔の移動速度は悲しいほどに遅く、又命中精度は哀れなほどだった。白兵戦用のキュイ戦闘歩兵輸送車は、歩兵をむき出しに搭載するという兵士の命を無視するものだったし、ドップ(戦闘機)やルッグン(偵察機)などはその形状から見ただけで飛行特性に問題があるのが分かる機体だった。ユーコン(潜水艦)は、モビルスーツの搭載を意識するあまり潜水艦にとって致命的とも言える静粛性を犠牲にしてしまい、連邦軍の卓越した対潜戦闘技術によって最初から行動を制限されるほどだった。地上では、宇宙空間などより余程多種多様な兵科の総合戦力が戦闘の行方を左右する、このためモビルスーツ以外に見るべき兵器の開発に成功しなかったジオン軍にとって地上戦闘に勝利できるどおりは最初からなかったといえる。