TARTAN (the MSN-08s story)

 


「大尉・・・」
 ニュータイプ用の仰々しいノーマルスーツとへルメットを纏った女性士官が弱々しい声でいった。
「大丈夫、ディート中尉!ここ2、3週間は問題がなかったでしょう?」
 これが、部隊に配属されてきたときには、自信満々、というよりは高慢ちきとも言える態度で接してきたと同じ人物とは、ピークハウス大尉にはとても思えなかった。しかし、現実は、そうなのだ。
 問題がなかったと言っても、この女性士官パイロットを打ちのめす程度の小さな問題は頻発している。
「でも、今日は・・・」
「いつまでも、演習用では分からないことはあるの、本物を使ってみなければ分からないことにはね!」
 ディート中尉の不安が、何に起因するのかは、ピークハウス大尉にも十二分に過ぎるくらいに分かっていた。
 今日、ディート中尉が、エルメス4号機で扱うのは、本物のビーム火器を搭載したファンネルなのだ。ここ1ヶ月、急ピッチで薦められてきた実用化試験の最終段階の試験だ。これが無事に問題なく終了すれば実用化の目処がつくと言われているが、実際にエルメス4号機とそのシステムがものになるかどうかは、非常に怪しいといわざるをえない。3号機までのシステムとは全く異なるシステムを搭載した結果、4号機のシステムとしての安定度は、最悪というレベルにまで落ちていたからだ。
「しかし・・・」
「自分を信頼することね・・・後は、フラナガン博士の理論をね・・・」
 言いながらも、その点が、もっとも危うく、そのせいで4号機のシステムが、最悪になったこともピークハウス大尉は知っていた。
 サイコミュによるシステムの制御に感情という要素を取り入れたせいだった。
 サイコミュによるシステムの制御に感情が大きく関与することは、その研究初期段階から知られていた。それを、どう抑えるかを念頭に置き、その対処に奔走したのが3号機までであり、それまでとは全く反対にその作用を積極的に利用しようとしたのが4号機のシステム、『TARTAN』システムだった。
「・・・はい」
「もう、訓練空域に着くわ、頑張って。としかあたしには言えないわ」
「ええ、分かってます」
 そういうとディート中尉は、ヘルメットバイザーを下ろした。
 
「大丈夫なのか?コールマン!」
「オールオッケーです、中尉!」
「この前みたいに、メインスラスターが咳き込むようなことはなかろうな!?」
「はっ!スラスター関連は、特に念入りに整備しましたので・・・」
 モニタに映った整備兵が、申し訳なさそうに言う。
「信じるよ、取りあえず今はな!」
『マックス小隊出撃せよ!続けて4号機ディート中尉、出撃、訓練空域に展開せよ!』
 艦内オールで発進命令が下され、マックス中尉は、愛機のリック・ドムを発進予備エリアから発進エリアへと移動させた。
「まあなにかあったら、こんな機体を採用したお偉いさんを恨むさ」
 最後に整備兵に気休めの一言を投げつけてマックス中尉は、リック・ドムのメインスラスターの出力を一気に発進レベルに上げた。そう、整備兵の腕が悪いわけではないのだ。
 半分、いやそれ以上に陸戦用に開発を進めていたモビルスーツを、軍の都合で急遽空間戦闘にも投入できるようにしたせいななのだ。不都合がないほうがどうかしている。
「マックス小隊出る!」
(今日は実戦ではない、何かあれば僚機が回収してくれるさ)
 機体支持架を解放すると出力を蓄えていたリック・ドムは一気に宇宙へと解放された。
 
「マックス小隊エリア4へ移動中。4号機、ディート中尉、発進、クリア」
 プロットされたブリップが、レーダーモニタの中心から2時方向へと離れていく。小さな点が3つに、大きな点が1つ。
 小さな点が先行し、それを追うように大きな点がエリア4に移動していく。
「うまくいくでしょうか?」
「行ってもらわねば、困る!遊びでこのグワジン級7番艦を訓練に投入しているのではないのだ」
 艦長席に鷹揚に座った艦長が、野太い大声で言った。
「確かに、そうでありますな。本艦の任務としては不適当であると小官も存じます、艦長」
 イエスマンらしく副官が、すぐさま応じた。
 しかし、実際その通りなのだ。推進剤をバカ食いするグワジン級戦艦を訓練のために運用することは、現在のジオン軍にとって、そうそう許されることではない。
「キシリア閣下の要請でなければ、山師の乗艦など許さんのだ!」
 秋以降、フラナガンとか言う技術者の元で新兵器の実用化試験に従事するよう命令され、このグワリンは、戦艦でありながら半ば以上試験艦に成り下がっている。
「ノイエ艦長のおっしゃる通りです」
 またもや、応じる。
「ふんっ」
 イエスマンめ!そう思いながら艦長は、言った。「オペレーター、本艦もディート中尉の機動を中心にトレースを怠るな!」
「アイ!サー!!」
(実戦でもないのにこのグワリンを使うなど・・・)
 しかし、4号機、いわゆるエルメスタイプのモビルアーマーを搭載できる艦艇は、限られているのだから仕方がない。エルメスをその支援機とともに搭載したうえに、各種の調査機材をも積み込んでなお、余裕を余す艦艇は、ジオンにあってこのグワジン級以外はありえなかったからだ。
「まもなくエリア4、ディート中尉はプローブに接敵します」
 自立機動をするプローブ、標的をいかに手早く撃破するかを問う試験なのだ。各プローブには、赤外線投射装置が装備され、疑似射撃も行ってくるし、敵(つまりエルメス4号機とその支援機)を捕捉すると予め決められた範囲で攻撃機動も行ってくる。実戦に準じた試験といえる。
「うむ・・・」
 軽く首肯き、ノイエ少将は、モニタにその意識を集中させた。
 
「プローブ確認、24機。接近中。距離37」
 マックス中尉は、リック・ドムのコクピットの中で4号機、ディート中尉の声を聞いた。相変わらず、澄んだいい声だ。艶っぽいと言ってもいい。
「ニードルシステム、放出・・・攻撃態勢に入ります」
 大したものだ・・・マックス中尉は、ひとりごちた。リック・ドムの、ザクからは有効範囲も性能も大幅に延伸したセンサーでさえ何も感じられない位置の敵を捕捉、攻撃しようというのだ。
「放出、攻撃準備完了、ディート中尉、行きます」
 緊張感を孕んだディート中尉の声が、耳に心地よい。
(パイロットでなければ、やってやりたいぜ・・・)
 いや、パイロットでも、だ、とマックス中尉は、思い直した。野卑た笑いが、思わずマックス中尉の顔に浮かぶ。
 次の瞬間、マックス中尉の意識は消えてなくなっていた。
 
 システムを構成するベイビー(母機のエルメスの後尾から放出されるためにこう呼ばれる)の放出は、殆どフルオートで行われ、放出完了後に、ベイビーは、ディート中尉のサイコミュの影響下に入る。最大で12基のベイビーを影響下に置くことが可能だったが、初日の今日は6基でしかない。訓練用のベイビー達と違って、今日は本物のメガビーム砲を発射できるベイビー達だが、基本は変わらない。
(訓練用と同じようにやって見せるだけだわ・・・)
 その瞬間だった。
 悪寒がディート中尉を襲ったのは。怖気を震うような悪寒、それを感じたときには、始まっていた。何が起こっているのかに気が付き、ベイビー達を自爆させたときは、全てが遅かった。
 
「マックス中尉は・・・?」
「戦死・・・です」
 通信手の報告に間が空いたのは、それを戦死と行ってよいものかどうか一瞬迷ったからだ。
 救出のために発進したザクからの報告は、誰もが期待するものとはことなっていたということだ。
「機体は、爆発しなかったのに?」
 マックス中尉のリック・ドムは、確かに命中弾を受けはしたが、他の2機のようには爆発しなかったのだ。
「コクピット部分をビームが貫通していたようです」
「ふん!ピンポイント攻撃というわけか・・・機体は、放棄させろ!どのみちメガ粒子砲が貫通した機体を再生できるとも思えん」
「ハイ、艦長」
 応じて通信手は、回収に向かったザクに命令を送り始めた。
 怒りに任せた大きなため息をつく。
 歴戦のパイロットを3名も、それも実用化できるかどうかも怪しい兵器の試験で失ったのだ。これほどバカバカしいことはない。
「4号機の回収急がせろ!」
 黙り込む副官に目もくれずノイエ少将は、命じた。全く、気分が悪い・・・。
(ソドンのコ・パイロットなんぞ使うからこうなる!)
 しかし、それは4号機のパイロットに限ったことではなかった。1号機のララァ・スン少尉は、どこかの孤児だったし、2号機のパイロットは、営倉から引っ張り出してきた軍曹だった。もっとも、この軍曹は、自分で自分をシステムの標的に選んでしまって、もうこの世には存在しない。3号機には、娼婦だったと噂されるクスコ・アル少尉・・・。もっともマシだと思える有線式のモビル・アーマーのパイロットも木星船団の指揮官でしかない。
(もっと、良いパイロットはいるはずだろうに!)
 しかし、それがどこにいるのかと問われると答えられないこともノイエ少将は知っていた。
 
「どうかね?」
 フラナガン博士が、ピークハウス大尉の元を訪れたのは、その日の夜も遅くなってからだった。憔悴しきっているように見えるのは、気のせいではないだろう。グワリンが帰港してすぐにキシリア閣下の元に呼び出され、ついさっき解放されたのだから。
「だいぶ、落ち着いたようです。今は、部屋で休ませています」
「直接話しをせんほうが良いんだろうな・・・きっと」
「ええ・・・」
 博士の表情の中に、慰め以外のものを見取ってピークハウス大尉は、合わせないことに決めた。確かに、ディート中尉は、博士にとっては、研究材料、しかもこのうえもない、だろうが、ピークハウス大尉にとっては、大切な部下だった。
 2号機のパイロットが、システムごと爆死してしまったために取れなかったデータを集めたい気持ちは理解できたが、それは、今日でなくとも出来ることだろう。
「ディート中尉には、言っておいてくれ。システムの調整法を鋭敏にしすぎたのだと」
「それで納得させられるとは思いませんが・・・」
 どこに原因があろうとその瞬間『TARTAN』は、ディート中尉の指揮管制下にあったのだ。そして、暴走とは言え、味方パイロットを3人も一瞬にして殺してしまったのだ。
 敵を殺すパイロットとして軍人になったのならまだ耐えられもしよう。しかし、ディート中尉は、航宙機のパイロットを志したに過ぎない。戦時にならなければ、その志のとおり、サイド間を運行する航宙機のパイロットになっていただろう。しかし、開戦によってそうはならなかった。
 大量に必要とされる軍用宇宙船のパイロットの1人として航空学校の学生だったディート中尉は、徴用されてしまったからだ。航空学校の学生ですら徴用せねばならないほど、ジオンの人的資源は不足していたのだ。
「だろうな・・・けれど、システムの試験は続けなければならん、ジオンのために」
「ええ、わかっています」
(博士自信の欲求のためにもね・・・)
 ピークハウス大尉は、男のそういった部分が、大嫌いだった。
 
 ディート中尉は、暗い居室で涙を流していた。
 自分の、感情が3人の優秀なパイロットを一瞬のうちに殺してしまったことを今は、理解していた。
 今は、マックス中尉の感情を読み取った自分を意識できていた。
 そして、今ならそれが自然な、ディート中尉にとってはそうではなかったが、男、しかもエースを自分で任じるような男にとっては感情であることも理解できていた。
 しかし、あまりに直裁な中尉の感情を感じ取ったその瞬間、ディート中尉は、普通の女性が感じる以上にマックス中尉を憎悪したのだ。
 憎悪をした瞬間、感情を組込んだ4号機のサイコミュシステム『TARTAN』は、ディート中尉を護ろうとした。3号機までのビット・システムであれば、メガ粒子砲の発射にパイロットの攻撃意志が必要だったが、4号機の『TARTAN』システムでは、それが必要なかった。パイロットが、脅威と感じるものを自動的に攻撃するようになっている『TARTAN』システムは、ディート中尉が、憎悪をした瞬間攻撃をしていた。
 つまり、敵として認めたものを僅かなタイムラグもなく、攻撃できるわけだ。
 小隊長のマックス中尉を殺され、その相手が、ディート中尉と知った瞬間、残った2機のパイロットが、殺意をディート中尉に向けたことも、自然なことだった。もちろん、彼らが、本当に殺意を表に出すことはなかったろう。
 けれど、ディート中尉は違った。自分の犯した罪におびえ恐怖したのだ。そこへ流れ込んできた殺意。
 マックス中尉の機体をファンネルが狙撃してからディート中尉が全てのファンネルを自爆させるまでに掛かった時間は5秒にすぎなかった。けれど『TARTAN』システムにとっての5秒は、十分すぎる時間だった。
 
『TARTAN』は、フラナガン博士の元で、感情制御の再プログラミングが行われることになり、ディート中尉の出撃もその間取り止められた。
 そのプログラミングが終わり、明日から再び実用化に向けた試験が始まるという日の夜、ディート中尉の元にピークハウス大尉がやってきた。
「中尉、良い?」
 軽い音のノックと声で、男ではないことを知り、ディート中尉は、返事をした。それに、この時間にやってくる人物が限られているということもあった。
「開いています」
 ドアが開き戸口に姿を表したのは、想像したとおりピークハウス大尉だった。
「どう?」
 自分と少しか違わないのに、その柔らかな物腰は、ディート中尉を安心させてくれた。辺りを少し見回してピークハウス大尉は、ベッドの端に腰を下ろした。
「はい・・・」
 明日からの実用化試験のことを心配してだとのことは分かったが、ディート中尉は、曖昧に答えた。実戦に用いるファンネルのうち6基を失ったせいもあって当面は、訓練用の攻撃力のないファンネルを使って行うことも知っていたが、再びエルメスのコクピットに座ることは恐怖だった。
「あたしが、乗れればいいんだけれどね・・・」
「無理ですよ、大尉、ご存知でしょ?」
「まあね」
「あれは、あたしに調整してあるんです・・・だから怖い・・・」
 感情の波長は個人によってもちろん異なっていたし、第一、エルメスのシステムは全てニュータイプにしか扱えない代物だからだ。そして、ディート中尉の感情は、お世辞にも制御されたものとは言い難い。それは、ディート中尉個人の資質ではなく、ディート中尉の若さに起因していた。若い女性の多くは、少なかれ自分に正直なものだからだ。
 それは、3号機のクスコ・アル少尉にも言い得ている。
 アル少尉の3号機は『TARTAN』を搭載していないにも関わらず、その感情の起伏の大きさのせいで実戦投入に二の足を踏む状況だった。
 比較的安定していたララァ・スン少尉の1号機も現在そのコントロールに不安が持たれている。その原因も、公式には不明とされているが、後ろ盾のシャア・アズナブル大佐が不在という点にあるとされている。
「TARTANでなくとも殆ど同じような問題は起きているわ・・・」
「・・・でも、あれを動かせる自信がもうわたしには・・・」
 ディート中尉の弱気の発言は、ピークハウス大尉によって遮られた。
「それでは、死んだマックス中尉に顔向けできないと思わなくって?中尉も、4号機の実用化のために死んだのよ?実用化できなかったもののために死んだとしたら?中尉は死にきれないのではないかしら?」
 今日までは、中尉の死を意識させないようにしてきたが、再びエルメス4号機のコクピットに座る明日からは、そういうわけにはいかなかった。
 俯き加減だったディート中尉の顔が、ゆっくりとピークハウス大尉の方に向けられる。
 完全ではないにしろディート中尉に、前向きな意識が戻ってきた様子だった。
 
 再び始まった実用化試験だったが、感情まで組込んだエルメス4号機の実用化試験は、遅々として進まなかった。グラナダのエリア4で連日のように行われる予定だった実用化試験そのものが、主に推進剤の不足から思うように任せられなくなったことや、『TARTAN』システムそのものの不調、戦況事態が急速に悪化し始めたことなどが重なって開発当初は、最重要視されていたエルメスとシステムの実用化、実戦投入は全く捗らなかった。
 加えて、ソロモン空域で相次いで、エルメス1号機が白い悪魔によって、3号機がピンクの悪魔によって撃墜されたことも、その2機よりは完成度が1段階未達な4号機に対する評価を下げ、他の様々な実用化に向けて開発中の兵器を優先させる結果となった。
 結局、エルメス4号機が実戦に投入されることはなかった。
 戦争は、誰もが思いもしないスピードで急速に収束してしまったからだ。
 
 終戦協定が、結ばれたとはいえ未だ混乱の収まらないグラナダエリア4で、1つの核爆発が起きた。
 その爆発に間していくつかの報告が、連邦軍のグラナダ制圧司令部とジオンの暫定残務処理部隊の双方になされたが、その当時は、漂流中で電力の落ちていない損傷モビルスーツや艦艇の爆発は、珍しいことではなく、連邦軍に何も損害がなかったこともあって調査はされなかった。
 
「作戦成功・・・ってとこね」
 ピークハウス大尉は、ソドン巡航艇のコ・パイロット席から減光された核爆発光をそれでも手で覆い隠しながらいった。
 ソドン巡航艇の3時方向で起こった核爆発は、急速にその光を失いつつある。ソドン巡航艇で極秘裏に曳航してきたエルメス4号機を自爆させた核爆発の光は、広がっていったスピードよりややゆっくりと終熄していった。これだけは、連邦に渡せないと判断したピークハウス大尉の命令で実施された破壊作戦だった。もちろん、終戦協定では開発中のものも含めて残存兵器の全てを引き渡すことが取り決められていたから、これは条約違反であり、連邦軍の軍事法廷に掛けられれば有罪、この場合は死刑が適応されるだろう、になることもはっきりしていた。
 それでも、ピークハウス大尉は、指揮下に残っていた技術班の兵士達とディート中尉とともにこの作戦を実施した。
 システム自体が解析にかけられることもそうだったが、手塩にかけた機体が連邦軍に渡ってしまうことの方が耐えられなかったからだ。
「私たちの部隊の作戦成功は、これが最初で最後ですね・・・」
 そういうとディート中尉は、軽く笑いをこぼした。「すみません、不謹慎でした」
「良いわ。確かに、妙なものね。終戦までは成功させた作戦も試験も含めて1つもなかったのに・・・」
 実戦に投入できると見込まれたニュータイプ・パイロットも、ディート中尉を除けば全て戦死してしまっていた。スン少尉、アル少尉、シャリアブル大尉。みんなだ。
「けっきょく・・・」
 ディート中尉は、ソドンの艇首を巡らせながらいった。「TARTANは、なんの役にも立ちませんでしたね・・・」
 軽い浮遊感をソドンに乗っている全ての者に感じさせながらソドンの艇首が、グラナダに向くのを待ってピークハウス大尉は、いった。
「そうでもないわ、あれは、あなたを護る力によって敵を攻撃するシステムだったんでしょう?」
 確かにそうだ。『TARTAN』システムは、パイロットが感じる恐怖や怒り、そういったものからパイロットを守ろうとする意識を攻撃に応用しようというものだった。パイロットから受け取ったそういう負の感情をファンネルに組み込まれた人工意識とでも言うべきものが受け取って攻撃へと変換するシステムだった。
「TARTANが、どの程度独立した意識をもってたのか知らないけど・・・」
 ピークハウスは、にっこりとした笑顔を向けて続けた。「ひょっとするとTARTANは、どうすればあなたを本当に護れるかを知っていたんじゃなくって?」
「?」
 ディート中尉は、ピークハウス大尉の真意を掴みそこねて首をかしげた。
「鈍いのね?」
 そういうとピークハウス大尉は、声に出して笑った。
 そして、真顔になっていった。
「あたしなら、1番大事な人を守るんだったら、戦場には行かせないわ・・・」
「・・・まさか・・・」
 ピークハウス大尉の言いたいことが分かってディート中尉は、絶句した。そして、そんなことありえるわけがない!と反論しようとしたが、やめにした。
 ありえないことでもない、と、ふと思えたからだ。
「とにかく・・・」
 考え込むディート中尉に明るくピークハウス大尉が、話しかけた。
「とにかく?」
「あたし達の戦争は、今、終わったわ」
 確かにその通りだった。
 もちろんディート中尉が、自分に起こった全てのことに折り合いをつけるには、随分と時間がかかったが、確かに、この瞬間がソドンに乗込んでいる者たちにとっての終戦だった。

お終い