『くにたち』二十集ろ

再会 提出40句 小浜杜子男選 26句

咳込むや電車の窓を雨叩く
隙間風寝室狭くする書籍
富士遠く浮き出る町や春浅し
新米を掬ひて緩む母の顔
冬星の大きさ競ふ信濃かな
ほかほかと湯気立つおでん供へけり
挨拶の済みし来賓秋扇
目の青き少女巻きをる秋簾
ふらここに坐して再会約しけり
じつとしてをられぬ寒さ始発駅
蓄音機鳴る洋館や春の雪
静かなる雨の夜明けや颱風過
滝の水末広がりに落ちにけり
よき夢を猫見てをらむ干蒲団
吟行の日和なりけり梅の里
神仏の加護あれ帰る鳥達に
天上へ響いてをらむ雪解川
春の風邪児童番組見てをりぬ
秋晴や鼓笛隊行く大通り
林檎むく全快近き子どもかな
銀杏散る中より路線バス二台
船通り過ぐる小春のお濠かな
うららかやシルクロードの果の奈良
まどろみをさそふ読書やハンモック
地動説なり秋嶺も富士山も
一室のともる校舎や虫の声

◎鑑賞  ふらここに坐して再会約しけり
 俳句を素直に詠むということの大切さを改めて教えられたような『再会』の作品であり、どの句も明快であたたかな読後感を読者に与える句になっていることに感心しました。<神仏の加護あれ帰る鳥達に>という句などに、特にそれが感じられ、作者のこころが曇っていては、とてもこういう句は出来ないと思いました。童心を失うことなく、自分の歩幅を守って歩みつづけることが、身についている作者のこれからの句を期待しています。<杜>



『くにたち』二十三集

初夢 提出40句 小浜杜子男選 26句

茶屋店の混むぽかぽかの梅の里
折柄の微風程よき夕端居
東京の水に慣れしか熱帯魚
初電話友に釣られし国言葉
鈍行に乗りて終点まで月見
甲斐へ響き信濃へ響き雪解川
ぎこちなく羽子つく異国娘かな
転がりつ滑りつスキー日和かな
富士見ゆる日和なりけり初電車
新任の医者稲刈を手伝ひぬ
オルガンの響く校舎や春の雪
蜂飛んでをり演奏の乱れざる
総代を越えむと誓ひ卒業す
カーネギーホールの指揮者春の夢
新茶飲む友とロックを聴きながら
秋出水携帯電話役立ちぬ
生身魂あらたな機器に対応す
葡萄狩かつて栖のありし町
キャンパスの出店混みをり文化の日
夏料理薬味に水の湧く音も
広島忌雨の記憶のなかりけり
旅先の子らと独楽打ち楽しめり
神輿舁く二十世紀のバス通り
飽食の世や六尺の冷蔵庫
初夢のわが句碑富士の見ゆる嶺に
初詣かつて坐禅を組みし寺

◎鑑賞  初詣かつて坐禅を組みし寺
 この句をはじめ、今回寄せられたすべての句から感じられるあたたかさ、なつかしさが、どこから来るのか考えておりました。入門、実作と着実な歩みを続けながら決してよそ見をせず、自分の詠みたいものだけをしっかり自分の言葉で句にしている作者の姿がどの句からも感じられ、春の野を楽しみながら歩いているような作者の俳句への取り組み方こそ俳句のこころに適っていると思いました。<杜>