たたかうちびまめ・・・

(新しい敵 2003/11/15)

 


 さて、小文字の表題の通り、ちびまめは、新しい敵と戦うことになりました。その敵の名は、心中隔欠損です。詳しくは、下に記しておきますが、新生児における先天性心疾患のうちで最も多い病気です。テレビなんかで良く取上げられて大変重症度の高い病気のように思えますが・・・実際問題としては頻発する病気(100分娩に1例)であり、テレビに取上げられるような症例は、テレビ敵に絵になるように比較的・・・イエ、とっても重症度の高い症例です。自然治癒する症例も多く、学校なんかで自分の子供がそうであることを披露すると『うちもなのよ』とか『親戚の子に・・・』なんて言う話が普通に聞ける病気でもある。・・・だからといって、ちびまめのことを心配しないのとは全然別次元なのだけれど・・・。

 それでも『この病気はですね・・・日本でも大変珍しく・・・』なんて、言われるよりもずっとマシなことだけは確かだ。

 ま、ちびまめの場合は、ご存知のように極小未熟児として世に出てきました。なので、その分、リスクは高いです。ですが、それが幸いして、病院の中でしっかりと管理して貰えています。つまり、異常があればすぐに対処して貰えるわけです。良かったねえ、ちびまめ。

 現在(〜2003年11月15日)のところ無症候性・・・つまり、症状が出ていない状態です。つまり、経過観察するだけで良いという状態です。

 そんな状態ということを例によって例のごとく『最悪』の場合起こりうる結果を含めてムンテラ(患者説明)されたわけですが、それだけを聞くと既にちびまめの運命は過酷なもの決定・・・と言う勢いです。でも、実際に調べると深刻なのはもちろんですが・・・非常に普遍的な(どこにでも散見される)病気で、治療法も確立されているということが良く分かります。また、症候性になった場合の対処法もよほどのことがないかぎり確立されています。ま、裏を返せば命に直結する部分の病気だけにそう言った技術が確立しているのでしょう。・・・でも、やはりムンテラで話される内容というのは、最悪のケースを想定しておいて下さいよ、病院は一生懸命やるのですけれど、お子さんの病気は、こういう危険があるのですよ・・・ま、つまり、言い訳を思いっきり最初にしておく・・・そう言うためのもののようです。

 とまれ・・・心室中隔欠損は、致命的なわけではないですが、軽く見ることも出来ないわけです。何と言っても場所が心臓ですから・・・しゃちょうと嬢ちゃんに今のところ出来るのは『頑張れ』という応援だけなのです。

 

 

 実は、この時の話、余談があって・・・

 ムンテラが終って暫くこの後のことを話していると・・・別なDr.が、突然入室して来てですね・・・怒涛のような勢いで新たなムンテラが始まりました。曰く・・・『動脈管が開存している』『腸の動きもほとんどない』『緊急手術が必要・・・』・・・最悪じゃん・・・

 で、しゃちょう・・・『ちびまめのことですよね?今までの説明と全然違うんですが・・・』

 Dr.『・・・』

 し『しゃちょうですが・・・』

 Dr.『・・・間違えました・・・伊藤さんのお子様の話です・・・』

 し&嬢ちゃん『・・・』

 え、なんとなく医療事故の起こる構造が分かったような気がします・・・


分かりやすい説明

 心室中隔欠損は右室と左室の間の壁、すなわち心室中隔に欠損孔のある病気です。この孔が大きく、子どもで1センチ、大人で1,5センチ以上あると、右室と左室の圧が同じになり、肺動脈の圧が大動脈の圧にほぼ同じになって、肺高血圧が生じます。孔がこれほど大きくないと、肺高血圧はあっても軽いか、あるいは合併しません。

 肺高血圧を合併するといろいろな意味で重症ですが、肺高血圧を合併しないと、中等症ないし軽症です。欠損孔は1センチ以下です。

 肺高血圧を合併しない場合には、左室から圧の低い右室に血液が流れ込み、大きな雑音が出ます。けれども雑音の大きさと病気の重さは比例しません。ただし、肺高血圧を合併する大きい心室中隔欠損では、かえって雑音は小さくなりますが、重症です。

 心室中隔欠損の大きさが中程度(子どもで直径5ミリ程度)ですと、左室から右室へ流れる血液の短絡のため、肺血流量が正常の2倍程度に増えます。以前は、この程度の心室中隔欠損も手術していましたが、この程度の心室中隔欠損の子ども、特に乳幼児の経過を3年,5年と見ていくと、しばしば孔が自然に小さくなることがわかりました。それで現在では、なるべく手術を先に延ばして、経過を見るようになりました。ただし、大動脈弁閉鎖不全を合併する場合は別です。

 心室中隔欠損が小さい場合(子どもで直径3ミリ程度)には、自然に閉鎖する率が高いので、細菌性心内膜炎の予防だけ行い、経過を観察します。自然閉鎖は1歳,2歳でよく起こりますが、10歳,20歳でも起こります。

 心室中隔欠損が自然閉鎖する経過は、大きい雑音が次第に小さくなります。胸部レントゲン写真の心臓拡大が次第になくなり、正常の大きさになります。心電図には始め左室肥大がありますが、それが次第になくなり、正常になります。最後に心臓の雑音がまったく聞こえなくなります。そのあとはまた孔が開くことはありません。その後は健康人とまったく同じで、運動もすべて参加できます。

医学的な説明

心室中隔欠損 ventricular septal defect ,VSD
* 概念
心室中隔に欠損孔が開いている状態であり、心室での左−右短絡によって体循環への心拍出量の低下と肺循環への肺 血流量の増加を招く点が特徴的である。
o 新生児でもっとも多い先天性心疾患
多くは生後1週間以内に心雑音で発見されるが、幼児期に高頻度で自然閉鎖する。
o 非チアノ−ゼ性
肺高血圧を合併しなければ左−右短絡であるから非チアノ−ゼ性である。
* 分類
三尖弁との関係から以下のように分類される。
o I型,流出路心室中隔欠損・・・漏斗部欠損など、欠損孔が室上稜よりも前上方にあるもの。大動脈弁閉鎖不全症を合併しやすい。
o II型・・・膜様部欠損など、欠損孔が室上稜よりも後下方にあるもの。もっとも多いタイプである。
o III型,流入路心室中隔欠損・・・欠損孔が三尖弁の中隔尖の裏側にあるもの。
o IV型,筋性部心室中隔欠損・・・欠損孔が筋性中隔にあるもの。
* 病態生理
心室では左心室のほうが圧が高いので左−右短絡となり、体循環への心拍出量の低下と肺血流量の増加を招く。 心拍出量の低下を代償するために左心肥大が生じ、放置すると左心不全に発展する。 肺血流量の増加はやがて肺高血圧に発展し、放置すると右室圧の増大からEisenmenger化を来たす。
o 左心不全
+ 鬱血性心不全
左心不全に発展すると体循環への心拍出量の低下への代償反応として循環血液量が増加するが、これ が逆に心負荷を増悪する。
o Eisenmenger化
肺循環への血流量は増加するため肺高血圧を招来し、これが原因となって右心圧が増大する。
+ 右心不全
* 症状
心室中隔欠損は重症度に幅がある。
o 肺血流量の増大による呼吸困難
o 心音所見
+ 全収縮期雑音 pansystolic murmur
左心室圧は右心室圧に比べて十分に高いため全収縮期にわたって中隔欠損孔を血流が逆流し、全収縮期にわたっ て粗い心雑音を呈する。第4肋間胸骨左縁 LSB-4 に最強点を持つ。
+ Carey Coombs雑音
僧帽弁での血流量が増加したために相対的僧帽弁狭窄症となり、心尖部にて拡張期雑音を聴取する。 短絡量の多い症例で聴かれる。
o 振戦触知
* 検査所見
o 心電図所見
減少した心拍出量を代償するために左室が肥大化する。欠損孔が大きいと両室肥大となる。
o 胸部X線所見
+ 肺血管影の増大
特に左第2弓の突出が見られる。
+ 心拡大
o 心エコー所見
ドップラー法にて欠損孔を通過する短絡血流が検出できる。Eisenmenger化すると右室壁の肥厚が認められる。
o 心臓カテーテル造影検査所見
+ 左-右短絡
+ 肺/体血流比の増大
* 合併症
o 感染性心内膜炎・・・発症率は約50%と極めて高いため、抜歯時などには抗生剤を投与して感染を予防する必要がある。
o Valsalva洞動脈瘤
o 大動脈弁閉鎖不全症
特にI型の流出路心室中隔欠損に多い。
* 治療
幼児期には自然閉鎖もあるので、軽症ならば合併症に注意しながら経過観察とする。
o 運動制限
心不全症状が出現するような中等度以上の場合には体育実技などは見学とする。
o 外科的治療
小欠損は自然治癒することが多いので原則として手術適応としないが、感染性心内膜炎に対する予防が重要である。 ただし感染性心内膜炎もしくは大動脈弁閉鎖不全症を合併するものは手術適応とする。
手術は、1)1歳以上 2)鬱血性心不全がなく 3)肺/体血圧比 Pp/Ps が1以下 の症例がよい適応となる。 ただし Eisenmenger化による右−左短絡が生じた場合は欠損孔の閉鎖によって肺高血圧の増悪を来たすので、 手術禁忌となる。肺/体血管抵抗比が0.8以上が指標となる。
+ パッチ
+ 直接縫合

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