The side story of 484 torpedo bombers
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 この小説は、機動戦士ガンダム、および、一定の水準の軍事知識があることを前提に書かれています。
機動戦士ガンダム本編とは直接関係ありません、全くの別物として軽い気持ちでお楽しみ下さい。

「ったく!あのじじいは、哨戒を舐めてやがる!」
 ゴドノフは、ムサイの数少ない舷側窓から視線を飛ばしつつ怒鳴るように言った。
 もしも、宇宙空間が音を伝えるならばウンディーネの2時方向に位置しているもう1隻のムサイにまで声が届いただろう。
「仕方ないですよ、向こうが先任なんですもの・・・」
 サクラ少尉の方はとうに怒りを通り越したらしく、諦め口調になっている。少なくとも前々回の哨戒までは、ゴドノフと一緒になって怒りを露にしていたのだ。
 
 2人が、怒ったり諦めたりするのも無理はなかった。
 哨戒任務が、単艦から2隻編成に移行して以降、ウンディーネのモビルスーツ隊が戦闘目的で出撃することが、全くなくなっていたからだ。もう、2隻編成に移行してから2ヶ月になろうかというのにである。
 理由は、2人が納得できるかどうかは、別にしていくつかある。
 1つには、艦隊温存主義が、このころのジオン軍に芽生えていたということにも理由は求められる。開戦以降、ジオン軍が失った艦艇の数は、この半年で戦争指導部が想定した喪失数を激しい勢いで上回っていた。戦争とは、恐ろしいまでの資源消耗の舞台ではあるが、開戦前の試算を遥かに上回る艦艇喪失率は、ジオンの戦争指導部を慌てさせるには十分だった。モビルスーツは、もちろん最重要な存在だったが、艦艇は、そのモビルスーツを運用するためには、絶対不可欠な存在である。そして、艦艇は、モビルスーツのように気楽に量産する訳には行かない、もちろんモビルスーツも既存の兵器と比較すればその量産性が高いとは言えなかったが、艦艇は、量産が効かないうえに資源をも大量に消費する戦争消費財だった。連邦と比較してあまりにも国力の小さなジオンにとっては、艦艇喪失を容易に補充する体勢は全く整っていなかった。
 ジオン軍首脳部が想像もしなかった喪失率を招いた一因として、艦艇そのものの性能の問題もあった。実質的に1年戦争の主力とならざるを得なかったムサイ級巡洋艦は、確かに優れた性能を有した巡洋艦だったが、それはジオンが実戦に投入したという意味でであり、ザクを運用できたという点に負うところも大きい。純軍事的に見るならばムサイ級は、凡庸な巡洋艦でしかあり得ない。HVLSを運搬し、地球に降下させる性能をも求められた結果ではあるが、ザクを運用できる、という点以外には、見るべきところがない。
 このことは、索敵能力に劣り、哨戒戦闘を余儀なくされたジオンにとって致命的な問題でもあった。開戦時のように奇襲に成功した戦闘や、決戦空域が指定された様なルウム戦役とは全く異なる戦闘が展開されるようになり、情況は一変した。連邦軍に先制攻撃を受ける戦闘が頻発したのだ。不期遭遇戦や索敵戦闘こそは、連邦軍の得意とする純軍事行動だった。完全に先手を取られた場合、言うまでもなく搭載モビルスーツの発進もままならぬままに連邦軍の圧倒的優位な砲撃を受けてしまう事態も続出した。
 ムサイ級は、哨戒戦闘任務につくには、あまりに脆弱に過ぎたのだ。
 そして、この時期実戦配備が可能となりつつあったザンジバル級巡洋艦も、ジオンにとっては無用な性能を持たすことによって中途半端な存在になってしまった悪例だった。ザンジバルは、連邦側が、大気圏突入可能な戦闘艦艇を建造しつつあるという情報を得て建造された巡洋艦だった。しかし、地球自体に生産拠点を置く連邦と宇宙にその拠点を置くジオンとでは、その必要性の有無は明らかだった。結果、開戦後にようやく実戦投入の見通しが立ったザンジバル級は、完成した時点で旧式化していた。前方射界しか得られないメガ粒子砲、大気圏突入能力を得るために撤廃されたカタパルト。初期推力をモビルスーツ自身の推進剤に頼らなければならないザンジバル級は、ことモビルスーツの緊急発進という点において、ムサイ級よりも退化したといえる存在だった。確かに、地球から単独〔といっても巨大な専用ブースターを要した〕で重力を振り切ることが出来る性能は、魅力だったが、専用の大圏往還機を建造したほうが、効率的には何倍も良かったことは論じる必要もない。
 では、ジオンにとって最良のモビルスーツ運用艦は何だったろうか?皮肉なことにそれは、旧式ミサイル巡洋艦を改装したチベ級巡洋艦だった。確かに、チベ級は、旧式艦だったが、機関を核融合炉式に変換した結果、メガ粒子砲を運用できるようになっていたし、その射界は、ムサイ級やザンジバル級と異なり全周囲に指向が可能だった。またモビルスーツの搭載数もザンジバル級には劣ったが、ムサイを上回っていたし、何よりも後年のモビルスーツ運用艦のほとんどに採用された前方射出型カタパルトを装備していた。また、対空火器も旧式であるがゆえに他のどんなジオン艦艇よりも充実していた。
 つまり、ジオンは、利用価値のない性能競争でザンジバル級を建造するのではなく、チベを強化発展させた巡洋艦を建造すべきだったのだ。大気圏突入が不必要なチベ級の発展型であれば、実戦投入はもっと早期に可能になっていただろう。
 そうすれば、艦隊温存主義は、産まれなかったかもしれない。
 2つ目の問題は、もっとミクロ的な問題であるがゆえに回避しようもない厄介なものだった。ウンディーネとペアを組むことになったムサイ級巡洋艦『アクメル』の艦長であり先任指揮官でもあるトーグル中佐の性格の問題だった。開戦以来ずっと後方にあって実戦を経験することのなかった中佐は、実戦向けの性格ではなかったのだ。確かに、哨戒活動は常に交戦を求められているのでもないし、実際問題として会敵するのも容易ではない。けれど、ペアを組む2隻哨戒体勢になって以降、会敵率がゼロという事実は、艦隊全体の士気の低下をもたらすと同時に、少なくとも『ウンディーネ』のモビルスーツパイロット達にとっては許容出来るものではなかった。
 しかし、彼等がどう思おうと、スミス中佐が歯噛みしようと指揮権は、厳然としてトーグル中佐のものである以上、どうすることも出来ない問題だった。
 
「9機もモビルスーツを運用しているのは俺達ぐらいだぜ?だったら、俺達・・・少なくともこのウンディーネ隊を信じてもっと大胆に艦隊行動をやってもいいじゃないか!」
 ゴドノフは、視線を待機室に戻しながら言った。顔面が、かすかに紅潮しているのは気のせいではない。
「こんなところで大きな声出しても意味ないですよ、少尉。艦長に直接意見具申して下さいよ」
 サクラ少尉が、僅かな期待を込めた口ぶりで言う。
「俺が、艦長に?」
 ゴドノフは、自分が、スミス中佐に意見を具申するのかとほんの少し想像しただけで目を白黒させた。ゴドノフは、あのての理知的で感情をほとんど表に出さない女性が苦手だった。ましてや、上官である。
「ええ、先任は、少尉ですもの」
 さらにサクラ少尉が畳みかける。口には出さなくても、顔中で意見具申して下さいよ!と、ゴドノフに訴えかけている。
「・・・よ、よし、次の出撃の時にはそうしよう!」
 中佐に意見具申なんてどう考えても出来っこない。ゴドノフは、あっという間に撤退を決めた。
「・・・」
(ったく・・・、アルコール飲んでやろうかしら・・・〕
 リックマンとオルトマンが聞いたら卒倒しそうな考えを巡らせながら、サクラ少尉は、心の中でだけ毒づいた。
 ちょっと口をとがらせて睨みつけるサクラ少尉にわざと目線を合わせないようにしてゴドノフ少尉は、当たり障りのない話題を必死で探した。
 もっとも、その試みは成功しなかった。
 ゴドノフ少尉が、何か気の利いた話題をふるまえにサクラ少尉が、ぷいとその場を離れていったからだ。もちろん、引き止められるわけもない。
〔だってよう、苦手なもんは苦手なんだもんよう・・・〕
 その後ろ姿にゴドノフは、心の中からだけ、言い訳した。
 
「艦隊進路右10、艦隊速度、第3戦速に増速せよ!」
「・アイ!右10、本艦は、第3戦速に増速します!」
 トーグル中佐の命令に操舵手が、少し間を空けて応えた。気になるほどではないが、その間は明らかだった。
「通信回線開け!」
 操舵手の返答を待ってトーグル中佐は、さらに命令を続けた。「ウンディーネ艦長に通信。当艦の後方3000にて後続せよ!モビルスーツを第1戦闘配備で待機させよ!当艦も、第1戦闘配備で以降、行動する!!」
 そのトーグル中佐の命令に艦橋職員の何人かが、軽い驚きを表す。哨戒ラインに到達しつつある現在、艦隊速度を増速させるということは、より積極的な位置まで艦隊を前進させ、積極的な哨戒活動、すなわち戦闘行動を意識した、を意味する。
 そして、続く命令は、完全に戦闘を意識したものだった。
 これまでの哨戒では、1度も命じられなかった種類の命令である。
 艦橋の空気の僅かな変化に気付いたという点では、トーグル中佐自身もそうだった。
(キシリア閣下の命令がなければ・・・)
 トーグル中佐は、一瞬ではあったけれど、艦橋に流れた雰囲気を感じ取って歯噛みした。気が付くから腹も立つ。そして、艦長であるがゆえにそれをぶつけるわけに行かないことも理解している。
 トーグル中佐も、後方勤務が長かったとはいえジオンで艦長職まで上り詰めた男である。この艦橋の雰囲気に気が付かぬなどということはなかった。
 だから、自分に蛭のように吸い付いて、何かの利益を得ようとあれこれ密告する副官がいなくとも、艦隊内で自分がどう思われているかも十分理解していた。憶病者だの、卑怯者だの、戦い方を知らない・・・並べあげればきりがない。
 けれど、そんなふうにトーグルを評価する奴等は、真実を見てはいない。
 自分は、計算高いだけなのだ。
 この戦争は、負ける。
 そう、ジオンの誰が何と言おうとこの戦争の勝敗は決定していた。開戦したときから、この戦争は、ジオンの負けと決まっているのだ。開戦して1ヶ月あまりの快進撃の時でさえ、トーグルは、そのことを疑ったことは1度もなかった。そして、現在、その兆候は完全に、トーグルの目から見れば、露呈していた。
 長く後方にあって、比較的重要度の高い情報に接する機会のあったトーグルにとって、自分の考えが正しいということを証明していく証拠は、いくらでも手に入った。どんな情報も、1つだってトーグルのその考えを変えさせるどころか、緩める気にさえさせなかった。
 ジオンが、負ける。この結論を得るには、3つの各論があった。
 1つ目は、ブリティシュ作戦の失敗だ。
 ジャブローを一気に叩き、連邦の軍としての組織を壊滅させる作戦が失敗した意味は大きかった。しかし、問題は第2次作戦に失敗したことの方が大きい。この種の作戦は、連続して実施できるのだということを示さなければブラフにはならないからだ。
 2つ目は、月面のマスドライバー施設を失ったことだ。
 月面のマスドライバーから打ちだされた岩石による地球爆撃は、実際のところコロニー落としよりもより深刻な軍事的効果を連邦軍に与えていた。正確な計算の元に打ちだされた岩石は、80時間から90時間かけて標的になった連邦軍施設に襲い掛かった。直撃命中率がそれほど高い攻撃ではなかったが、ほとんど回避できない攻撃が、決まった時間にやってくるという心理的効果は、実際に伴う破壊以上に連邦軍を圧迫するものだった。
 これほど重要な施設を、ジオン軍は、早々に失ってしまった。
 3つ目は、戦争が経済であるという点だった。
 完全な勝ち戦と言われた1週間戦争でさえ、ジオン軍は、無視しえない損害を被っていた。国内が、戦勝気分に沸き立つ中、ジオンの統合軍司令部では、その損害の多さに色を失っていたのだ。そして、講和条約が結べずに終わった時点で、ジオンの戦争経済は破綻したのだ。それを証明するかのように、次々ともたらされる勝利の報告など色褪せてしまうほどの損害報告がなされていたのだ。戦線が、膠着した現状を維持するのに必要な戦力試算を作成したとき、彼等は、絶句せざるを得なかった。
 モビルスーツだけに限っても月産1000機の生産が必要と見込まれたのだ。大増産の掛け声の元でフル生産されている6月時点での生産数が、600機をようやく越える程度であり、1000機などは、夢のまた夢の数字だった。もう、その頃には不足が深刻になりつつあったモビルスーツパイロットになると、もっとお寒い現実が横たわっていた。ジオンが、用意した予備搭乗員は、あっという間に消費し尽くされた。既に現状では、開戦以降に急速養成されたパイロットが投入されつつある。そのことは、より以上にモビルスーツの喪失率を上昇させ、さらに多くのパイロットが必要とされていく・・・いわゆる悪循環に陥っていた。資源小国、というよりは資源を産出できない、そして、人的資源にも乏しいジオンにとって、それはまさに悪夢以外の何ものでもなかった。
 以上のことから、トーグル野中では、この戦争は、負けることが決まっている既定事実になっていた。
 負けることが決まっている戦争に命を懸ける必要性は、どこにも見いだせない。ならば、そういう可能性を少しでも減らすように立ち回る必要があった。哨戒部隊に転属になったのは、大きな誤算だったけれど。けれど、自分が先任である間は、何とかする自信はあった。そして、実際にこれまでは自分の思うように行動できた。そう、昨日までは。
 この出撃の前、トーグルは、キシリア直々の呼び出しを受けた。会敵が少ないことの嫌みだった。そして、今回の哨戒では是非に戦果を挙げよとも。嫌みだけなら安いものだ、命に代えることは出来ない。しかし、去り際の一言を聞かされ、トーグルは、自分の指針を変えざるを得ないことを思い知らされた。
「適材適所という言葉がある・・・地球の前線では、優秀な指揮官が必要とされている・・・」
 その一言は、誰に語りかけたというわけではない形にはなっていたし、返答を求めていたものでもなかった。恫喝だった。それは、本物の恫喝であると同時に、1回りは年下の女に恫喝された屈辱の瞬間だった。
「オペレーター!周辺警戒を厳にせよ!!」
 トーグル中佐は、思いを振り払うように命じた。
 ならば、敵を捕捉して叩いて見せるまでだった。
 
「旗艦より、発光信号。艦隊速力、2戦速とせよ!!です」
「速力第2戦速!」
 オペレーターが、伝えてくる旗艦からの命令を下達しながら、ゴトウ中佐は、左舷、艦隊の中央に位置する旗艦に目をやった。退役から復帰した大佐の指揮する改装モビルスーツ母艦が、そこにはいた。サラミス級巡洋艦から見れば、かなりの旧式に属する艦だ。
(どうせなら、ガルバルディ級の正規空母の護衛といきたいものだが・・・)
 サラミス級と同時期に就役した正規空母のことを思ってみるが、その正規空母以上にこの古びた改装空母が重要であることも、少なくとも頭ではゴトウ中佐も理解していた。
 なにしろ、連邦軍が保有し、現在のところ戦闘に投入できる唯一のモビルスーツ運用艦なのだ。
「第2戦速、アイ!」
 操舵手が、不安を口調に出して返事をする。
「えらく、スピードを落としますね・・・艦長」
「それなりの理由が、あるのだろう・・・」
 減速する気配を感じながら副官も疑問を口にする。ただ、その疑問が正しいものかどうかは分からなかった。軍務が長いといっても、ゴトウ中佐も副官もモビルスーツ運用艦との共同戦闘は、今回が初めてだったからだ。
 ただ、副官が疑問を持つのも分からないではない、接敵が予測される空域での減速は、艦隊運動用の予備運動エネルギーを減殺するという点であまり好ましいものではないからだ。
「だとよろしいのですが・・・」
「何か、不満でもあるのか?」
 不満は、聞かなくともあるに違いなかった。普段は、このような物言いをする副官ではなかったからだ。もっとも、不満というよりは、不安と言った方がより正確かもしれなかった。
「いえ、旗艦の艦長は、退役復帰の大佐ときいています・・・戦術が間違っていなければと思うのです」
「間違ってはいまい、1艦の艦長を任されているだけでなく、部隊の司令官をも任されているんだ。それに、我々は、モビルスーツを伴う艦隊戦闘に初めて参加するのだ、その点を忘れてはいかんよ」
 副官に言って聞かせてはいるが、その半分は自分自身に言い聞かせている面もあった。なにしろ、副官の言うことはあまりにももっともなことだったからだ。
「はあ・・・」
 まだ納得いかない副官から注意をそらし、ゴトウ中佐は、再び旗艦の方へ視線をやった。何度見ても、古い艦だった。まず、設計思想が古い。なにしろ就役してから20年を経ようかという旧式艦である。幾度かの近代化改装を受けているとはいえ、全体のフォルムの古さは隠しようもなかった。なにしろ20年前の建艦思想に基づいて建造されているのだ。
(全く、妙なことになったものだ・・・)
 自分の置かれた境遇に思いを馳せ、ゴトウ中佐は、誰にも聞こえないように呟いた。
 本来、ゴトウ中佐の『ベオグラード』は、部隊再編成まで(それがいつになるのかは全く不透明だった)の期間、ルナ2の警備隊に編入されることになっていた。警備隊といえば聞こえはいいが、要するに暇を囲うだけのことだ。軍が、組織として動く以上、生じる非効率的な側面にあたるという寸法だった。
 けれど、このモビルスーツ運用艦を含む部隊を構成するサラミスの1隻が損傷したことによって急遽、その穴埋めを一時的にしろ担うことになったというわけだった。
 ルナ2の司令部は、輸送船護衛部隊の生き残りにはさどかしピッタリな役割だと思ったことだろう。
 ゴトウ中佐にとって、例え行き当たりばったりの穴埋め的配属であっても、警備隊で暇を囲うよりはずっとマシな処遇だった。それに、ゴトウ中佐は、ジオンの哨戒部隊を叩くという任務を頭から否定しているわけではなかった。ただ、ジオンを叩く主力が、モビルスーツであり、自分が、そのモビルスーツを搭載する母艦を守るだけというのが気にくわないだけだった。
 本当のところは、ムサイにこの『ベオグラード』のメガ粒子砲を叩き込んで一暴れしたいところだったが、それが叶わない、そのことだけが、気にいらないのだった。輸送船の護衛というくだらない任務(もちろん重要性は心得ていたが)が、終わったと思ったらこんな旧式艦のお守りをしなければならいとはなんとも運のないことだとゴトウ中佐は、嘆きたくなった。
 それでも、ルナ2で合成されたビールを飲みながら無駄な時間を過ごすよりずっとマシだった。
 それに、戦場では何が起こるかしれたものではない。そう、戦闘が、最初の計画どおりに行ったことなど、どの戦史を紐解いても皆無だということを、ゴトウ中佐は、よく心得ていた。