ぶつくさと〜く

【Vol.11】 鉄道の旅 (1997.9)

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突然ですけど、僕は鉄道の旅が結構好きなんです。

去年、飛行機やバスでの移動が主流のオーストラリアに行った時も、
大陸の横断は鉄道でしました。
今回は、その鉄道の旅のお話です。

(注: 今回はほとんどボケていません。ごめ〜んね)

さて、僕の鉄道好きは子供の頃からやったみたいです。
昭和59年2月23日に書いた作文、
「将来なりたいもの」(文集「4年生のおもいで」より)
の冒頭にはこんなことが書いてあります ───

よく電車に乗っているぼくは、
小さいころから電車がすきだった。
よく乗るので、一番前に立つこともある。
一番前では線路が見える。
線路のある前では、とても楽しい。

─── とまあ、意味がよく分からないところもあるんですけど、
とにかくこの時は、電車の運転手になりたいって書いてます。
(しかし4年生のくせに「小さいころ」って書いてるのがちょっと笑える)

小学校の終わりから中学校の頃にかけて、
父親が新潟で単身赴任していたこともあって、夏休みや冬休みになると、
独りで各停(各駅停車)を乗り継いで新潟へ向かったものです。

大学に入ってからもそのクセ(?)は抜けず、
暇があれば「青春18切符」を手にふらっと出かけることもありました。

例えば1回生の夏休みには、
独りで大阪から九州まで15本の列車を乗り継いで、
丸2日かけて往復したりもしてます。
(なんか俺って寂しい人みたいやな〜)

まあその時のことなんですけど、この旅の目的は、
高校の修学旅行の時に太宰府(福岡県)で買った合格祈願のお守りの
「お礼参り」やったんです。

で、軽〜くお守りだけ返してすぐ帰るつもりやったんです。
「お礼参りに来ました」って社務所(かな?)で言うと、
「拝んで行かれますか?」と聞かれました。

ただで何かやってもらえるんやな、って思った僕は、
迷わず「はい」と答えてしまったんです。
(発想がやらしい?)

これが悲しい事件の発端でした。

すぐに、少し高くなってて外から丸見えの本堂に案内され、
ぽつんと独りだけで正座させられたかと思うと、
突然「ドーン!ドーン!」と太鼓(銅鑼?)が鳴ったんです。

おいおい、なんかえらいことなってきたで〜、とか思ってると、
神主さん風の人が出てきて、めちゃでかい声で、

「大阪府箕面市のとみたのぶよし‥‥‥京都大学に入学し‥‥‥」

って言い出しよったんです。

もちろん観光地で、しかも夏休みやったんで、まわりは人だらけ。
丸見えなんでみんなこっち見てるじゃないですか。

こらこら、もう勘弁してよ〜って思いながらもなすすべがなく、
結局最後までやってもらいました。その間約10分。
そして礼を言って、こそこそ逃げるように帰りました。

も〜あの時は、ほんま恥かしかったですよ。とほほ。
(みなさんも一度やってもらっては? うっしっしっ)

話は戻りますけど、なぜ鉄道の旅が好きかって言うと、
もちろん電車が好きだったというのもあるんですけど、もっと大きな理由は、
その地方の人々の心に触れることが出来るってことなんです。

朝から晩までず〜っと各停で旅をしていると、
ほんと、いろんな人に出逢うんです。

眠そうな目をこすりながら登校する高校生や、
楽しそうにハイキングに向かう家族連れ、
そして自分よりも大きいくらいの荷物を背負った行商のおばさん達。

その中にいると、なんかその地方に生きる人々の生活の中に、
自分も一瞬だけとけ込めたような気がして、
すごく温かい気分になれるんです。
そんな気になったことってないですか?
(俺、変な奴かな〜? そんなことないと思うけどな〜)

最後に、中学の頃の話を一つ ───

それは寒い冬の日でした。
新潟に泊まりに行っていた私は、父親が仕事だったので、
朝からふらっと独りで列車に乗り込みました。

列車は4時間近くかけて山形駅に到着し、
私は山形市内やその近辺の町を見て廻って、
夕方、新潟に戻る列車に乗りました。

まだ電化されていない路線で、ディーゼル車はうなりをあげながら、
ゆっくりゆっくりと、2本のレールだけを頼りに進んで行きました。

私は、車内の灯りで暗闇の中にかすかに浮かぶ雪を、
水滴がぎっしり付いた窓ガラス越しに見つめていました。

まだ中学生だった私は、独りで遠くまで来ているせいか、
しだいに不安でいっぱいになってきたのです。

「早く新潟に着かへんかな〜。」
そればかり考えて、外をじっと見ていました。

すると突然、私の寂しげな顔に気付いたのか、
前に座っていた若い男の人が、
「どこまで行くの?」って優しく話しかけてくれました。

そして数分くらい、いろいろとしゃべった後、
「これあげるよ」と、
手にしていたお菓子の箱を差し出してくれたのです。

なんか、涙が出そうでした。

私が小さな声で「ありがとう」と言うと、
その男の人は少し微笑んで、そして次の駅で降りて行きました。

そして、私は新潟に着くまでの間、
ずっとその箱を握りしめていました‥‥‥

─── 二度と逢うことはないであろうその男の人の顔は、
もう10年くらいも前のことなので忘れてしまいました。

しかし、人生の中でたった一度きりの私との出逢いの瞬間に見せてくれた、
あの最高の温かさを、私は一生忘れることはないでしょう。

そして、その想い出がある限り、私はまた旅に出ることでしょう‥‥‥

(Vol.11 おしまい)


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