ぶつくさと〜く

【Vol.128】 豊 (2012.9)

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デリーの我が家は、ちょっと古い3階建の大きな家(集合住宅)になっていて、
その中に全部で5つの家族が暮らしています。

各家庭の玄関は別々になっていて、私の場合は2階に玄関があり(英国式なので1st Floor)、
玄関を入ると2階と3階が中で繋がっている、メゾネットタイプと言われる形になっています。

玄関の扉はオートロックになっていて(聞こえはいいが外側にドアノブがついてないだけ)、
鍵を持っていないと外からは開けられない仕組みになっています。

8月のとある日曜日。

私は、近所のジムへと歩いて出掛けるために、リュックサックにシューズやウェアを詰め込んで、
天気のいい中、意気揚々と家を出発しました。
その1分後、「あ、家の鍵、家の中に置いてきたままやん・・・」
(チーン)

まぁでも、合鍵がオフィスの引き出しに入っているのを思いだして、あ〜よかった。
・・・と思ったのも束の間、その引き出しの鍵が入ったカバンも家の中にあることに気付き、ガックリ・・・。

流石にこれはまずいなぁと思ったのですが、まぁ今更じたばたしても何も状況は変わらないので、
とりあえずごく普通にジムに行くことにしました。
汗を流して1時間半ほどでジムを後にし、さぁ、ここからがいよいよ本番です。

「さて、どないしよ・・・」

午後から買い物などをするため外出する予定だったので、
すでに我が家の前に、私の専属のドライバーさんが来ていました。
(めちゃカッコよく聞こえますが、インド赴任者は普通全員そういうシステムになっとります)

とりあえず何もできないので、ドライバーさんに、建物のオーナーにTELしてもらい、
我が家の合鍵を持っていないかを確認してもらうことにしました。
すると、合鍵を持っている!ということはすぐに分かったのですが、
今はデリーを不在にしていて、すぐには戻れないとのこと・・・。
(チーン)

ということで、どこにも鍵が無いことが分かったので、諦めて、
どこかのガラスを割って侵入することにしました。

そうは言っても、うちは2階と3階が住まいなので、簡単には侵入すらできません。
一番行きやすいガラス窓のある3階のベランダに行くために、
ドライバーさんとともに、まずは3階建の屋上まで行くことにしました。

近くに置いてあった手造りっぽい木のハシゴを移動させていると、
ハシゴの先っちょの木のところに溜まっていた水が私の肩のところにかかり、
暑い中、何ヶ月も溜まりっぱなしになっていたためか、それが衝撃的に臭い・・・。

この時点でもう涙がちょちょ切れそうだったのですが、そうは言っても家に入れなければ、
一生帰る家すら無く、「ただの臭いおっさん」になってしまいます。
(それは言い過ぎか?)

何とか3階から屋上まで、その手造りのぐらぐらの木のハシゴで上がることができました。
しかしその先が難関、屋上から3階の長細く狭いベランダまで、少し飛び下りなければなりません。
3階の屋上、つまり4階の高さから飛び降りるのは、かなり勇気がいるもんでして・・・。

ドライバーさんは「危険なので止めておこう」と言うのですが、
そうは言ってもこれでも小さい子を持つ親、臭いおっさんのレッテルを貼られて生きていくのは嫌です。
(なんかきっと勘違いしてるな、俺)

勇気を出して、持てるだけの腕力を振り絞って、
3階のぎりぎりのところまで身体を降ろしてから、なんとか無事に飛び降りました。

そして屋上から大き目の石を落としてもらい、窓ガラスをガンガン叩き始めます。
1回、2回・・・そして5回くらい石で叩きましたが、なかなか割れず・・・。
いや、きっと本気の力を出して思いっきり叩けば割れるのでしょうが、
尾崎豊じゃないので、そないに簡単に、窓ガラスを壊して回れるほどの「ワル」にはなれません・・・。
(なんじゃそら)

ということで、窓ガラスを壊して侵入するのは最後の最後の手段にするとして、
ひょっとするとインドにも「鍵の救急屋さん」のような仕事の人がいるかもしれないと思い、
結局ドライバーさんに、「鍵を開けられそうな人探してきて・・・」とお願いして、
私は3階の狭いベランダで待つことにしたのでした。

10分くらい待ちましたが、3階の狭いベランダにずっと人がいるのもどうも不自然ですし、
それに携帯電話は持っていても、特にやることもないので、
その下に見えていた、2階の広いベランダまで飛び降りることにしました。

もちろん、これも少し勇気は要ったのですが、先ほどと違って転落して命を落とす心配は無かったので、
まぁなんとか飛び降りて、広いベランダでさらに5分ほど待っていました。

そうこうしてるうちに雨がぽつぽつと降り始め、これはまずいなぁ・・・と思った瞬間、
私の携帯電話にドライバーさんから電話が。

「今、人を連れて来たので、ドアを開けている」

は・・・早っ!!

どこからどうやって探してきたのか分からないのですが、
ほんの10分ほどで謎の鍵職人を連れてきて、もうすでにドアの鍵を開けているようなんです。
(実際はベランダにいたので何が起こってるのか全然見えてなかったけど)

そしてしばらくすると、ドライバーさんが私の待つ2階のベランダのドアの鍵を内側から開けてくれ、
ようやく私は、念願の我が家に舞い戻ることができたのでした・・・。
(長い道のりやった・・・)

どこの鍵を開けたのかと思って見てみると、
流石にオートロックの玄関の鍵はすぐには開けられないだろうとのことで、
「内側に金属の棒をスライドさせるだけの鍵」がついている別の勝手口のようなドアを、
外からなんと、トンカチとマイナスドライバーだけで器用に開けたとのことでした。
(こ、この人、いろんな家に簡単に侵入できるやん!)

・・・ということで、自分のおうちで無事にシャワーを浴びることができ、
ただの臭いおっさんから、石鹸のニオイのするおっさんに生まれ変われたのでした。
(気持ち悪いが、めでたしめでたし)

しかし、ジムに行った後の方が、よっぽどいろんなところの筋肉を使ってしまいました。
ほんと、インドにまで来て、一体何をやってるんだか・・・。

ちなみに職人代は、ほんの500ルピー(約700円)でした。
(はぁ、最初からこの人を呼べばよかった・・・)

***
さて、そんなこんなで、デリーの雨季ももうおしまい。
10月、11月の、フェスティバルシーズンが幕を開けます。

それではまた!

(Vol.128 おしまい)


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