どたばた旅行記

9.壮絶!冬のザ・ウェイブ

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アメリカはアリゾナ州・ペイジ(Page)の町の西側、ユタ州に接する地域に、
バーミリオンクリフス国定公園(Vermilion Cliffs National Monument)というところがあります。

「ザ・ウェイブ(The Wave)」と呼ばれる場所は、その公園内の、
パリアキャニオン・バーミリオンクリフス自然保護区(Paria Canyon-Vermilion Cliffs Wilderness Area)内、
コヨーテビュート・ノース(Coyote Buttes North)地区に位置します。
(名前、めっちゃ長いや〜ん)

日本のTVでも何度か放映されたことがあるその景色は、まさに絶景と呼ぶに相応しいもの。
今回はその景色を自身の目で確かめるため、アリゾナ州へと向かいました。

・・・とは言え、「ほな、明日ちょっと行ってみるか〜」と簡単に行けるところではなく、
完全に自然のままの荒野を保護するため「許可証」が必要になっており、
一日にその地区に入ることができるのは、なんとわずか20人・・・。

そう、世界中で「たったの20人だけ」しか入れない場所なんです。

と言うことで、まずはその20人に選ばれるため、厳正な水着オーディション・・・じゃなくて、
難関を突破するところから始めなければなりません。

一日で20人、そのうち半数はインターネット上でおよそ4ヶ月前に申し込みを受け付け、抽選で選ばれます。
(残りの半数は、前日に現地でくじ引きなので・・・現地まで行ってもハズれたらアウト)

申し込みサイト: https://www.blm.gov/az/asfo/paria/coyote_buttes/index.htm
参考にしたサイト: http://www.zionnational-park.com/paria-wave-blm.htm

抽選の申し込みをするだけで費用が発生する(5USドル)ので、いい加減な申し込みをする訳にはいきません。
(ちなみに許可証は一人7USドル)
そこでウェブ上で、日々刻々と変化する申し込み人数の一覧とにらめっこしながら、
当たりそうな(もちろん勘ですが)候補日を3つ選びます。
(ベストシーズンの春や秋には、10人の枠に500人以上の申し込みがありました・・・)

旅の時期が冬で、比較的人気薄のシーズンだったためか、運良くその10人のうちに当選!
許可証↓も無事郵送されてきて、
念願のザ・ウェイブへと向かうための、第一の難関はクリアすることができたのでした。

許可証01   許可証02   許可証03

許可証の紙の色は様々のようですが、こんな感じで封筒が送られてきます。
中身は、ざっくりした地図(→ちょっとだけ拡大)2枚、許可証(常備用&車用)、以上。

さて、ガイドブック(地○の歩き方)にちらっとだけザ・ウェイブの記述があって、そこにはこう書いてあります。
「手付かずのバックカントリーなので遭難などのリスクが高く、
個人で訪れるのは危険をともなう。ガイドを頼むといい。」

・・・およよ。

まぁ確かに、広大な荒野の中に最大で20人までしか入れないという、
グリーンランド並み(いや、それ以下か?)の、ものすご〜く人口密度の低い状態になる訳で、
何か事故が発生したとしても、また方向を完全に見失ったとしても、誰かの助けはあまり期待できません。
(自然保護目的で、途中に看板など、ほとんどと言っていいほど設置されてないし)

とは言え、まぁ遭難のリスクが高いだけで、死ぬわけではないでしょうから(ほんまか)、
「まぁなんとかなるやろ」と、持ち前の楽観主義(←これで何度も失敗している)で、
個人で訪れるための旅の準備を始めます。

飲み水も無ければ、その辺でおしっこすることも禁止されているくらいの自然保護区なので、
コンパス(方位磁針)やGPSだけでなく、必要量の水やトイレなんかまで持ち運ぶことになります。

てことで、今回の持ち物リスト(2人分)はこんな感じ。

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さぁ、準備が整ったところで早速出発します〜!
(今後行かれる方のために、なるべく詳しく書いておくことにします)

ワイヤーパスへ01

前日はペイジの町に宿泊し、朝7時過ぎに宿を出発。
US-89号線を一路西へ40マイル(64km)ほど走り、看板が見えたら左折して、
House Rock Roadという、土むき出しの未舗装道路へと入ります(上の写真)。

進むにつれて、道はどんどん硬い雪に覆われ出し、
「おぃおぃ、こんな道でちゃんと目的地まで辿り着けるんかよ?
しかも辿り着けたとしても、ザ・ウェイブ自体、雪で埋もれてるんとちゃうんか?」
などと、次第にいろいろな不安が頭の中を駆け巡り出します。

ちなみに車はレンタカーのカローラ。
この時、ガイドブックに書いてあったもう一つの「不吉な文章」を思い出しました。

「路面が乾いていれば普通車でも走れるが、雨が降ると途中に川が現れ、数日間通れなくなる」

・・・。

ワイヤーパス01   ワイヤーパス02   ワイヤーパス03

アップダウンを何度か繰り返し、土と雪の道をなんとか8.3マイル(13.3km)ほど走ると、
トレッキングのスタート地点となるワイヤーパス・トレイルヘッド(Wire Pass Trail Head)へと到着しました。
到着は朝8:30くらいだったのですが、駐車場には車が一台も止まっておらず、
「え、今日はひょっとして2人だけなん・・・?」と、さらに不安が募ります。

半泣きになっていると、一台、また一台と、明らかに装備の違う「しっかりした車」がやってきました。
車の違いはさておき、とにかく「あぁ、他にも行く人いるんや〜」という安心感とともに、
唯一の「ぼっとん便所」(写真中央)で最後の用を足して、
ザ・ウェイブに向けてのトレッキングはスタートします!
(ここでは記入しなくてもいいのかもしれませんが、一応「入山届」に名前を書いておきました〜)

川底を歩く01   川底を歩く02  

まずは雪の残るドライクリーク(乾いた小川)の川底を、15分くらい歩きます。
日もだんだん差してきて、「トレッキングには最高の日やな〜」と思いながらも、
直射日光に照らされて融け出しそうになっている雪に、一抹の不安を感じます。

ポイント@へ01   ポイント@へ02   ポイント@へ03

右側にコヨーテビュート・ノースへの入口を示す小さな棒状の看板が出ると、
川底から外れ、そこからはいきなりの登り坂。
坂を上りきったとこら辺に、同じように名前を記入するところがあります。
(こっちはちゃんと記入しないといけない)

ポイント@へ04   ポイント@へ05

それを越えると、わりと平坦な道が続きます。
夏場は砂地に足跡が、冬場は雪に足跡が残ってるので、いずれにせよ迷うこと無く進めるでしょう。
(地図の「Point 1」の辺り)

平地ゾーンを抜けると、小さい川を渡り、岩山の下まで来ます。
それほど急な岩山ではないのですが、凍っていたり濡れていたりして若干滑りやすいので注意が必要。
(写真右は帰りのものです。小さく写っている嫁を縮尺のご参考まで)

岩山を越えると、「Point 2」に到着。
スタートしてからここまで、およそ40分。

ポイントCへ01   ポイントDへ02

ここからはほぼ真南に進むことになります。
平坦な岩の道が続くのですが、雪が少なくなるので、足跡があまり(夏は恐らく全く)ありません。
GPSで軽く現在地をチェックしながら、
次第に見えてくる「ツインビュート(写真左)」をひたすら目指します。
サボテンの横に、人間が目印にと作ったのであろう岩の積み跡があったりします。

ちなみに往路は「ツインビュート」という立派な目印があるので分かりやすいんですが、
帰りは何も大きな目印が無く、ここで迷う人が多いらしいです・・・と言うか、実際に迷いかけました。
(地図とコンパスとGPSとで何度も位置を確認しながら進んだ・・・)

ツインビュート01   ツインビュート02   ツインビュート03

スタートからおよそ60分で、ツインビュート(「Point 4」)に到着、もう半分まで来ました。
中央の写真の正面に見える低い山の中腹が、目的地です。
写真右は、裏から見た(お乳型の)ツインビュート。

ポイントEへ01   ポイントEへ02   ポイントEへ03

休憩を終えて、さらに先へと進みます。
自然保護区なだけに、圧倒されるような大自然の景色の中を歩き続けます。

ゴールへ01   ゴールへ02

ツインビュートから歩くこと30分、山の中腹に向かって、最後にもう一度登り坂が登場します。
ここからまただんだんと雪が増えてくるので、
またまた「ザ・ウェイブ、やっぱり埋もれてんとちゃうか?」と焦り始めるのですが、
とにかくここまで来たからには、ひたすらゴールだけを目指します。

ふと振り返ると、今まで通ってきた岩の大地が、遠くまで見えます。
ゴールまであと少し!

そして・・・

ザ・ウェイブ01

「うお〜っ!!なんなんじゃ、この景色はっっ!!!」

スタートから2時間弱、お目当ての「ザ・ウェイブ」に到着しました!
想像もできないほどの年月をかけて地球が作り上げた美しい芸術作品が、目の前に広がります。

ザ・ウェイブ02   ザ・ウェイブ03

ウェイブの縮尺はこんな感じです。
雪がウェイブの一部に残っていましたが、それでも十分に大きな波を堪能することができました。

この美しい地層を作り上げているのはあくまで「砂の塊」なので、
手で触ると意外にももろく、簡単に崩れてしまいます。
ここを訪れることができる人間を、一日20人に制限している理由がよく分かります。

ウェイブ周辺01   ウェイブ周辺02   ウェイブ周辺03

ザ・ウェイブのまわりには、ペンタゴンとブラックホールの「四次元殺法コンビ」も真っ青の、
異次元のような空間が広がります。
(ここに来ていきなり「キン肉マン」ネタ登場)

ウェイブ周辺04   ウェイブ周辺05   ウェイブ周辺06

ザ・ウェイブからさらに5分ほど山の上に行くと、「セカンド・ウェイブ」というのがありました。
(その場にいたロシア人のみなさんに付いて行っただけやけど〜)

化石らしき模様をした岩や、完全にビッグマック型の岩も登場。

携帯トイレ   帰り道01   帰り道02

ザ・ウェイブをたっぷりと堪能し、滞在2時間ほどで、
明るくてまだ人がいるうちに(「万が一」の場合に備えて)駐車場へと戻ることにしました。

持参した携帯トイレに活躍してもらった後は、行きと同じ道を戻ります。
先にも書いたように、目印があまり無いので、地図・コンパス・GPSを何度もチェックします。

忘れずに入山届にOUTしたことを書き込むと、駐車場はもうすぐ。
最初の川底に来る頃には、乾いていた土がすでにぬかるんでいました・・・。

午後3時頃、駐車場に到着し、ザ・ウェイブへのトレッキングは無事終了です!
(季節によりけりですが、結局今回飲み水は「二人で1.5リットル」で足りました)

「さぁ、じゃあペイジの町へと帰るか〜」と、満足感たっぷりで運転を開始。
が、こちらもたっぷりの日差しを受けて、土と雪の未舗装道路は、
完全にただの泥道になっていました・・・。

頭の片隅で常にもごもごと蠢(うごめ)いていた嫌な予感が、今、現実のものに!

地獄01   地獄02

ブゥ〜ン!ブゥ〜〜〜ン!!ブゥ〜〜〜〜〜ン!!!

「えと・・・この坂、上られへん・・・」

そう、駐車場を出てほんの数分、軽い登り坂の途中で完全にスタックしてしまったのですっ!
(車が斜めになって止まってるのん、分かりますかね・・・?)

何度アクセルを踏んでも、タイヤは泥をえぐって空回りするばかり。
泣きそうになりながら外を見てみると、坂の上からどんどんと泥水が流れてきており、
どう見てもカローラで進めるような道とは思えません。

ここで何時間か待って、まだ後に残っているロシアの人々に、
車を捨てて泣く泣く乗せてもらわなあかんのやろか・・・?
そしてどこぞに連絡して、翌日車をレッカーしてもらわんとあかんのやろか・・・?
いや、そんな悠長なことしてられんわいっ!

「しゃあない、とりあえず車押してみるか・・・」

私は、防寒用に持参していたバイク用の防水ズボンを履き、車の外に出ました。
足は完全にぬかるみの世界、回転するタイヤが泥を周囲に撒き散らしている状況でしたが、
嫁に運転を替わり、観念してカローラの後ろに回りこみます。

そして、ここ数年で一番と言っていいほどの力、
ケンシロウなら着ている服が完全に破れて上半身がセクシィになってしまうくらいの力で、
思いっっっっっきり車を持ち上げて押します。

「うお〜〜〜!!!」

ほんと、「助かりたいって」本気で思った時には、力って出るもんですね。
何度かトライするうちに、なんとか車は坂の上まで動き、自力走行ができるまでに!

もうその後は、すべての登り坂を「勢い」で走り抜けるために、
ジェットコースターに乗っているかのような運転でした。
もちろん泥でタイヤがスリップして、車体が左右に振られるので、
小刻みにハンドルを動かして、なんとか体勢を保ちながら、必死の形相での運転でしたけれど・・・。

地獄03   地獄04

10km以上の「泥道アトラクション」を終え、カローラ様(←敬称が付く)と一緒に安堵の表情。
ズボンも靴も、泥だらけ(と言うか「泥だけ」)になっとります、はぃ。

いや〜、ガイドブックの書いてることは、やっぱり正しい(苦笑)

*****

とにもかくにも、こんな感じで「ザ・ウェイブ」への旅を楽しむことができました。

みなさんも一度、この絶景を体験されてみては如何でしょうか?
(でも、ちゃんとした車で行きましょうね)

(おしまい)


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